
はじめに
近年、タイムラプス技術の発展により、受精胚の形態動態学的パラメーターが受精胚能力やART成績と関連することが明らかになっています。女性の年齢やBMIなどの母体因子がこれらのパラメーターに影響することは知られていますが、男性因子の役割については十分に研究されていませんでした。本研究では、男性年齢、BMI、精子濃度、精子DNA断片化率が胚形態動態学に与える影響を評価することを目的としました。
ポイント
女性の交絡因子を調整した後でも男性年齢とBMIが胚形態動態に影響していました。
引用文献
Rossella Cannarella, et al. J Assist Reprod Genet. 2025 Sep 17. doi: 10.1007/s10815-025-03658-4.
論文内容
男性因子が胚形態動態学に与える影響を評価することを目的とした前向き観察研究です。顕微授精(ICSIもしくはIMSI)を実施する不妊カップルの1,210個の受精胚をタイムラプスモニタリングしました。男性データとして年齢、BMI、精子濃度、精子DNA断片化(SDF)を収集し、多重回帰分析を用いて父親の因子と形態動態学的パラメーターとの関連を、女性の交絡因子を調整して評価しました。
結果
調整後、男性年齢とBMIが受精胚の発達段階に有意に影響することが判明しました。男性年齢は前核の出現時期からt4およびt6まで、男性BMIは前核の出現時期からt2およびt8まで影響を与えました。精子濃度の影響は一貫性が低く、前核出現時期(tPNa)とのみ関連を示しました。SDFとの有意な関係は観察されませんでした。多重回帰分析において、男性年齢は受精胚の早期形態動態学的タイミング(tPNa、tPNf、t2、t3、t4、t6)と有意に関連していました。これらの所見は、男性年齢が受精胚の発達、特に6細胞期までの発育遅延に関連している可能性を示唆しています。男性BMIも受精胚の形態動態学、特にtPNa、tPNf、t2、t8の変化と関連していました。
私見
男性肥満は精子の質に悪影響を与えることが知られていますが、本研究では男性BMIと受精胚の早期分割期の加速との関連が示されました。これは先行研究(Hoek et al.)と一致する所見です。
精子DNA断片化(SDF)に関しては、本研究では有意な関連が認められませんでしたが、これは先行研究とは異なる結果です。Wang et al.やWdowiak et al.は、SDF率の上昇が形態動態学的パラメーターに悪影響を与えることを報告しています。
本研究の臨床的意義として、男性年齢とBMIが受精胚の発達に影響することから、ART前の男性に対する生活習慣の改善や適切な体重管理の重要性が示唆されます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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