
はじめに
凍結融解胚移植児は早産や在胎期間に比して小さい(SGA)児のリスクは低いものの、巨大児や在胎期間に比して大きい(LGA)児のリスクが高いことが報告されています。同胞内比較をおこなった報告をご紹介いたします。
ポイント
凍結融解胚移植により出生した同胞は、新鮮胚移植で出生した同胞と比較して、交絡因子を調整後も出生体重が高く、早産リスクは低いがLGAリスクが高いことが示されました。
引用文献
Belva F, et al. F S Rep. 2025;6:319-27. doi: 10.1016/j.xfre.2025.07.007.
論文内容
凍結融解胚移植後に出生した同胞と新鮮胚移植後に出生した同胞の新生児転帰を評価することを目的とした前向きコホート研究です。2008年から2021年の間に単一施設で、新鮮胚移植と凍結融解胚移植の両方を受けた母親から出生した単胎の同胞ペアを対象としました。同胞間の平均出産間隔は約2.6年で、異なる時期の採卵周期で得られた胚からの出生を比較しています。分割期胚(D3)と胚盤胞(D5/6)移植の混在した解析となっています。同胞間の相関を考慮して凍結融解胚移植後と新鮮胚移植後の転帰間の関連性を検討しました。
結果
ART1,185組、PGT実施155組の同胞ペアのデータが利用可能でした。移植胚数は凍結胚移植でより多くの単一胚移植が行われていました(88.2% vs 76%、P<0.001)。性別に差はありませんでした(男児:49.6% vs 49.3%、P=0.82)。治療法および母体背景を調整後も、凍結融解胚移植同胞では新鮮胚移植後に出生した同胞と比較して、より高い平均出生体重標準偏差スコア(調整平均差:0.40; 95%CI: 0.29-0.50; P<0.001)が認められました。この知見は胚発育段階の違いに関係なく一貫しており、新鮮D3移植群(調整平均差:0.20; 95%CI: 0.02-0.38)および新鮮D5移植群(調整平均差:0.39; 95%CI: 0.27-0.51)の両方で確認されました。凍結融解胚移植は早産リスクの低下(aOR 0.70; 95%CI: 0.50-0.97)とLGAリスクの増加(aOR 2.37; 95%CI: 1.48-3.79)と関連していました。周産期死亡(1.9% vs 0.7%、P=0.14)、先天奇形(1.9% vs 2.6%、P=0.38)、NICU入院(2.0% vs 1.4%、P=0.70)、妊娠糖尿病(7.7% vs 9.4%、P=0.27)、妊娠高血圧症候群(7.8% vs 5.5%、P=0.06)には差はありませんでした。PGT後の同胞でも同様の傾向が確認されました。
私見
凍結融解胚移植児の出生体重増加やLGAリスク上昇は複数の同胞研究で一貫して報告されています(Luke B, et al. J Assist Reprod Genet. 2017、Pinborg A, et al. Hum Reprod. 2014)。新鮮-凍結コホートでの第2子の出生体重増加が+240gであり、これは先行研究の+222g(アメリカ)、+244g(オーストラリア)と一致し、通常の出産順序による効果(80-118g)を大きく上回っています。
出生体重の差異が凍結融解手技の直接的影響か、新鮮周期と凍結周期の内膜調整におけるホルモン環境の違いによるものかは今後の重要な課題です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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