
はじめに
葉酸はDNA合成、転移RNA、システイン、メチオニンの合成に必要で、急速な細胞増殖期、特に受胎前後期間において重要な役割を果たします。現在、生殖年齢女性には神経管欠損症予防のため受胎前の葉酸サプリメント摂取が推奨されていますが、他の生殖転帰も改善する可能性があります。今回、米国におけるART治療前の葉酸摂取量と不妊治療結果の関連を調査した前向きコホート研究をご紹介します。
ポイント
葉酸サプリメント摂取量が800μg/日以上の女性では、ART治療後の出生率が20%高くなりました。
引用文献
Gaskins AJ, et al. Obstet Gynecol. 2014;124(4):801-809. doi:10.1097/AOG.0000000000000477.
論文内容
米国集団において、葉酸とARTアウトカムの関連を前向きに評価することを目的としたコホート研究です。マサチューセッツ総合病院不妊センターにおける前向きコホート研究に参加した女性232名を対象としました。ART治療前に食事摂取頻度調査票を用いて食事を評価しました。ART結果をカルテから抽出しました。女性あたり複数周期を考慮したランダム切片付き一般線形混合モデルを用いて、カロリー摂取量、年齢、BMI、人種、喫煙状況、不妊診断、プロトコルタイプを調整して葉酸摂取量とART結果の関連を評価しました。
結果
232名の女性(年齢中央値35.2歳、葉酸摂取量中央値1,778μg/日)において、葉酸摂取量が多いほど着床率、臨床妊娠率、出生率が高くなりました。葉酸摂取量の四分位別のART開始周期あたりの調整出生率(95%CI)は、第1四分位で30%(21, 42%)、第2四分位で47%(35, 59%)、第3四分位で42%(30, 35%)、第4四分位で56%(43, 67%)でした(P-trend=0.01)。サプリメント葉酸摂取量の最高四分位(>800μg/日)の女性では、最低四分位(<400μg/日)の女性と比較して出生率が20%(8, 31%)高くなりました。サプリメント葉酸摂取量が多いほど受精率が高く、移植前の周期不成功率が低くなりました(P-trend=0.03、0.02)。
私見
オランダでの研究(Boxmeer JC, et al. Hum Reprod, 2009)では、卵胞液中葉酸濃度の2倍増加が妊娠確率の3倍増加と関連していたという今回同様ポジティブな報告もありますが、英国での研究(Haggarty P, et al. Lancet, 2006)では妊娠前葉酸と妊娠成功の関連は認められないという報告もあります。
葉酸はサプリメントとしては1000ug/日を上限とすることが記載されていますから、複数のサプリメントを摂取する際は含有量を注意していく必要がありそうです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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