
はじめに
鉄充足妊婦における日常的な鉄サプリメントの効果は不明確です。貧血および鉄欠乏のない妊婦における経口鉄サプリメントの有益性と有害性を評価することを目的としたシステマティックレビューをご紹介いたします。
ポイント
正常鉄状態妊婦への日常的経口鉄サプリメント(30-100mg元素鉄/日)は分娩時鉄欠乏性貧血と低出生体重児のリスクを軽減する可能性があります。
引用文献
Hansen R, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2023;102:1147-1158. doi: 10.1111/aogs.14607.
論文内容
鉄充足妊娠における日常的な鉄サプリメントの効果は不明確でした。本システマティックレビューは貧血および鉄欠乏のない妊婦における経口鉄サプリメントの有益性と有害性を評価することを目的としました。
PROSPEROにプロトコルを事前定義・登録し(CRD42020186210)、PRISMA方法論に従ってレビューを実施しました。非貧血鉄充足妊婦における日常的経口鉄サプリメントと鉄サプリメント非投与を比較したRCTおよび観察研究を検索しました。開始時から2022年9月まで言語制限なくMEDLINE(PubMed)、EMBASE(OVID)、Cochrane Library、ClinicalTrials.govで検索を実施しました。
組み入れ研究の鉄サプリメント投与量は、硫酸第一鉄としてFe 30-100mg/日(1日1-2回)でした。具体的には、30mg/日(1研究)、40mg/日(1研究)、50mg/日(2研究)、60mg/日(2研究)、100mg/日(2研究)の範囲でした。全ての研究で妊娠20週以内に介入を開始し、分娩まで継続しました。
結果
8RCT(2822名女性)が組み入れ適格でしたが、観察研究は該当がありませんでした。妊娠期の日常的経口鉄サプリメントは分娩時鉄欠乏性貧血をおそらく軽減します(RR:0.51、95%CI:0.38–0.70;4 RCT、1670名女性;I²=13%;中等度確実性エビデンス)および低出生体重児の発症率を軽減します(RR:0.30、95%CI:0.13–0.68;2 RCT、361人の新生児;I²=0%;中等度確実性エビデンス)。さらに分娩時鉄欠乏を軽減する可能性があります(RR:0.74、95%CI:0.60–0.92;4 RCT、1663名女性;I²=58%;低確実性エビデンス)およびSGA児の発症率を軽減する可能性があります(RR:0.39、95%CI:0.17–0.86;1 RCT、213人の新生児;I²算出不能;低確実性エビデンス)。
本研究では非貧血鉄充足妊婦を、ヘモグロビン値および少なくとも1つの鉄状態指標(フェリチン、トランスフェリン、トランスフェリン飽和度、可溶性トランスフェリン受容体)で正常と判定された妊婦と定義しました。鉄欠乏性貧血は主にHb<11g/dLかつフェリチン<12-15ng/mL、鉄欠乏は主にフェリチン<12-15ng/mLと定義されました。ベースラインフェリチン値は研究間で10-20ng/mLから100ng/mL超まで幅があり、多くの研究で10-20ng/mLという比較的低い下限値が設定されていました。
私見
妊娠前に自身の鉄欠乏を知っておこう(https://wfc-mom.jp/blog/post_752/)も参考にしてください。
日本人の食事摂取基準(2020 年版)では、鉄において EAR(推定平均必要量):18–29歳:8.5 mg/30–49歳:9.0 mg、 RDA(推奨量):10.5 mg、UL(耐容上限量): 40 mg となっています。妊婦の過剰鉄の状態、長期的な母児への影響評価が今後の課題と考えますが、モニターをおこなったうえでの投与を行えば過剰になることはなさそうですね。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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