プレコンセプションケア

2022.09.21

妊娠前に自身の鉄欠乏を知っておこう

貧血が出現する前に鉄欠乏状態を評価し、治療することが大事であるとされています。非妊娠生殖年齢女性の鉄欠乏の原因である過多月経や鉄摂取不足を含めて管理していくことで、生活の質を向上させ、妊娠時の周産期予後(胎児死亡、低出生体重児、早産、新生児や母親の死亡、不必要な輸血)が改善できるためです。

鉄は、酸素運搬、DNA合成、代謝、細胞呼吸など様々な生命維持機能に関わる必須元素です。しかし、鉄が過剰になると、活性酸素が発生し、酸化ストレス、脂質過酸化、DNA損傷が起こり、細胞死が促進されます。体内の鉄バランスをよく把握しておくことが大事です。
鉄サプリメントなどの過剰摂取を行わない限りは、過剰が問題になることは少なく、基本的には欠乏状態が問題となります。
世界保健機関(WHO)によると、貧血の定義として、非妊娠時成人女性はヘモグロビン値12g/dL未満、妊娠女性はヘモグロビン値11g/dL未満と定義しています。貧血がないから大丈夫というわけではありません。貧血でなくても鉄欠乏状態が続くと、月経時の出血や妊娠時の鉄需要の増大などにより鉄欠乏性貧血に移行してしまいます。
鉄は過剰にとることは良いことではありませんが、鉄欠乏状態(肝臓、脾臓、骨髄などでの鉄貯蔵量の減少)は回避しておくことが好ましいとされています。
ヘモグロビンは「貧血」、血清フェリチンは「炎症状態のない場合の鉄貯蔵量」、血清中鉄飽和度は「赤血球生成に利用できる鉄」を表すと考えます。
フェリチンは鉄の貯蔵量に比例するとされ、よく鉄欠乏状態を診断するために測定されるマーカーです。血清フェリチン値30μg/L未満をカットオフとすると92%の感度と98%の特異度を示すとされています。
血清フェリチンは、炎症状態(感染症、自己免疫疾患、がん、慢性腎臓病、慢性心不全、肥満など)により高値を示すこともありますので、補助診断に血清中トランスフェリンを反映する総鉄結合能(TIBC)、血清中鉄飽和度(%)(=血清鉄/TIBC×100)などを追加で測定することもあります。まれにですが、再生不良性貧血や溶血性貧血、白血病などがみつかることもありますので、総合的に判断していくことが重要です。
国内では血清フェリチンの明確な基準がありませんが、国内女子大学生1,401名を対象に実施した報告では、鉄欠乏性貧血者(ヘモグロビン値12g/dL未満)は5%程度であったのに対し、血清フェリチン低値(血清フェリチン値12μg/L未満)の鉄欠乏は25%程度みられたことが報告されています(北川元二ら、2019年)。血清フェリチン値30μg/L未満には食事指導から始め、12μg/L未満をきってくるようだとサプリメントや薬剤摂取を考えるようにしています。
鉄欠乏の原因は多岐にわたりますが、メインは摂取不足と、妊娠前は出血、妊娠中は需要の増大です。鉄は1日の食事中に平均20mg含まれており、そのうち約1mgが十二指腸(空腸上部を含む)より体内に吸収されます。これにより、消化管や皮膚の上皮細胞の脱落による鉄の喪失(約1mg/日)を補っています。
血液中には1mL中に0.5mgの鉄が含まれていて、一回の月経量20-140mLを考えると月経中には鉄10-70mgが喪失されることになります。
食事に含まれる鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、ヘム鉄は肉類などの動物性食品に多く含まれ、体内への吸収率は約10~30%、非ヘム鉄は緑黄色野菜など植物性食品に含まれ吸収率は約10%とされています。まずは食事で摂取し、欠乏状態が続くようであればサプリメントや薬剤での摂取を検討していくことが大事であると考えています。
どれくらい鉄を摂取すればよいかですが、月経のある女性の推定平均必要量=(基本的鉄損失+月経血による鉄損失0.55mg/日)÷吸収率(0.15)とし、推奨量は推定平均必要量の1.2倍と計算しています。
生殖年齢女性では、鉄推定平均必要量8.5-9.0mg/日、推奨量10.5-11mg/日としています。過多月経女性の場合は推定平均必要量13mg/日以上、推奨量16mg/日以上を鉄欠乏の状態を加味し摂取を検討していきます。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4ah.pdf

厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』という海外文献を参考としたサイトがありますので参考になさってください。
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/07.html

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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