プレコンセプションケア

2026.07.06

帝王切開瘢痕内膜欠損と異常子宮出血(BJOG. 2025)

はじめに

帝王切開は産科で最も一般的な手術ですが、世界的にその施行率は増加しており、長期的な術後合併症も問題となっています。帝王切開瘢痕欠損(caesarean scar defect: CSD、別名 niche、isthmocele)は瘢痕治癒不良により生じる合併症で、その有病率は56〜84%にも及びます。CSD患者では、帝王切開後異常子宮出血(pcAUB)、慢性骨盤痛、続発性不妊などの帝王切開瘢痕症候群を呈することがあり、CSD女性の33.6%に月経後出血が認められます。従来、pcAUBの原因は瘢痕部の子宮筋層欠損(CSMD)による経血貯留と考えられてきました。しかし、CSDの大きさと症状は必ずしも相関せず、その病態には未解明な点が残されています。今回、瘢痕部の子宮内膜欠損(CSED)がpcAUBの病因に果たす役割を探究したレトロスペクティブ症例対照研究をご紹介いたします。

ポイント

帝王切開瘢痕部の子宮内膜欠損(CSED)は、子宮筋層欠損とは独立してpcAUB発症および慢性子宮内膜炎に強く関与しています。

引用文献

Yanpeng Wang, et al. BJOG. 2025. doi: 10.1111/1471-0528.18089.

論文内容

異常子宮出血(AUB)の病因における子宮内膜欠損の役割を探索することを目的としたレトロスペクティブ症例対照研究です。
2019年1月から2023年12月までに2施設の三次医療センター(Zhejiang Provincial People’s HospitalおよびThe First Affiliated Hospital, Zhejiang University School of Medicine)で子宮鏡検査を受けたCSD患者155名(AUB群69名、非AUB群86名)が対象となりました。除外基準は、子宮鏡検査時の流産、閉経後、ビデオ記録不良、AUBを起こす他の子宮病変(出血性ポリープ、子宮内膜増殖症、悪性腫瘍、粘膜下筋腫、子宮腺筋症)の存在でした。pcAUBは月経直後の褐色帯下を伴い、月経出血の総期間が7日を超えるものと定義されました。AUB群は非AUB群と比較してより重度の筋層欠損を有していたため、CSDの幅・深さおよび既往帝王切開回数を変数とする傾向スコアマッチング(PSM)が行われ、AUB群30名と非AUB群30名が1:1でマッチングされました。子宮鏡所見の評価は2名の経験豊富な婦人科医が独立して行いました。各群13名で、CSD表面と子宮内膜の生検が実施され、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で子宮内膜厚を、CD31免疫染色で血管密度を、CD138免疫染色で慢性子宮内膜炎(CE)を評価しました。CEの診断基準は1個以上のCD138陽性形質細胞/HPFとしました。

結果

PSM前、AUB群は非AUB群と比較してCSDの幅(20.1±8.8 vs. 8.4±5.2 mm; P<.001)と深さ(14.7±6.1 vs. 5.4±4.1 mm; P<.001)が有意に大きく、帝王切開既往回数が多く(2回既往:46.4% vs. 27.9%; P=.027)、後屈子宮の頻度が高い(72.5% vs. 33.7%; P<.001)ことが示されました。 PSM後、患者背景に有意差は認められませんでしたが、AUB群では月経期間が有意に長い結果でした(14.3±3.7 vs. 5.5±1.4日; P<0.001)。子宮鏡所見では、5項目で有意差が認められました:上皮欠損(83.3% vs. 46.7%; OR 5.5; 95%CI 1.5–23.7; P=.007)、露出血管(76.7% vs. 36.7%; OR 5.5; 95%CI 1.6–20.6; P=.004)、過形成血管(76.7% vs. 33.3%; OR 6.3; 95%CI 1.9–24.2; P=.002)、in situ出血(60.0% vs. 3.3%; OR 40.7; 95%CI 5.3–1852.0; P<.001)、血性粘液(66.7% vs. 20.0%; OR 7.7; 95%CI 2.2–31.1; P=.001)。一方、孤立性子宮内膜遺残(20% vs. 13.3%; P=.729)およびフラップ状線維性辺縁(73.3% vs. 53.3%; P=.180)には有意差は認められませんでした。 病理学的評価では、AUB群でCSD表面の子宮内膜厚が有意に菲薄化していました(0.23±0.17 vs. 1.02±0.16 mm; P<.005)。CD31陽性血管領域の比率はAUB群で有意に増加し(5.77%±0.18% vs. 1.12%±0.13%; P<.001)、CSD部位のCD138陽性細胞数もAUB群で有意に多い結果でした(11.31±5.30 vs. 4.53±2.43; P=.026)。CD138陽性であった11名(AUB群9名、非AUB群2名)はCEと診断され、抗菌薬治療を受けました。AUBとCEを合併した9名全員で、手術および抗菌薬治療後にAUB症状の改善が認められました。腹腔鏡手術を受けたAUB群23名のうち、18名(78.3%)でpcAUB症状の改善が報告されました。

私見

CSDと慢性子宮内膜炎(CE)の関連については、先行研究と整合性のある結果が得られています。Nobuta Y, et al. Tohoku J Exp Med, 2022では帝王切開瘢痕症候群女性での子宮腔内慢性炎症と妊孕性低下が報告されており、Wei L, et al. J Pers Med, 2022のPSM研究でもCSD女性におけるCE有病率の上昇が示されています。本研究では、CSED部位の上皮欠損と露出血管が、頸管・子宮腔内の細菌叢攪乱を介してCEを誘導するという病態仮説(Yang X, et al. Microbiol Spectr, 2022、Chen P, et al. eLife, 2024)を病理学的に裏付けています。注目すべきは、AUB群におけるCD138陽性形質細胞の増加がCSD部位に限局しており、子宮内膜本体では両群で差がなかった点で、CSDが局所的な慢性炎症の温床となっている可能性を示唆しています。 
著者らは月経周期9〜12日目に非接触式子宮鏡(拡張圧80–100 mmHg)でCSDを評価し、必要に応じてCSD部位の生検を行うことを推奨しています。CSD部位の生検はハードルが高いですが、今後検討していくことも考えないといけないかもしれませんね。 

【Figure 1】帝王切開瘢痕部子宮内膜欠損の子宮鏡所見

(A) 典型的な子宮鏡所見 
AUB群と非AUB群を上下に対比して提示しており、以下6項目の特徴的所見が代表画像で示されています:
– Bloody mucus(血性粘液):緑矢印 
– Flap-like fibrotic edge(フラップ状線維性辺縁):青矢印 
– Epithelial deficiency(上皮欠損):アスタリスク(*) 
– Isolated endometrial remnant(孤立性子宮内膜遺残):白三角(▷) 
– In situ hemorrhage(in situ出血):赤矢印 
– Exposed & hyperplastic vessels(露出・過形成血管):赤矢印 
AUB群では各所見が明瞭に観察される一方、非AUB群では同部位が比較的平滑で出血や血管異常を欠く対比的な画像が提示されています。 

(B) PSM後のAUB群と非AUB群における特徴的子宮鏡所見の存在についてのオッズ比(forest plot)
横軸にOR(95%CI)をとり、有意な所見(赤丸)と非有意な所見(青丸)を区別して表示しています。具体的には、in situ hemorrhage(OR 40.7、95%CI上限1852まで延伸)、bloody mucus、hyperplastic vessels、exposed vessels、epithelial deficiencyが有意(significant)として、isolated endometrial remnantとflaplike fibrotic edgeが非有意(non-significant)として図示されています。 

【Figure 2】CSD患者(AUB群および非AUB群)の典型的病理所見 

(A, B) CSDのHE染色 
AUB群(A)と非AUB群(B)を対比。スケールバー200 µm。AUB群(A)では上皮欠損(*印)、孤立性子宮内膜遺残(△印)、露出・過形成血管(赤矢印)が示されています。AUB群では子宮内膜が著明に菲薄化している一方、非AUB群では正常に近い厚みの内膜が保たれている画像です。 

(C, D) CSDのCD31免疫染色 
スケールバー50 µm。AUB群(C)では血管内皮細胞(CD31陽性)が多数の小血管・うっ血毛細血管として表面付近に密集している像、非AUB群(D)では血管密度が明らかに低い像が示されています。 

(E, F) CSDのCD138免疫染色 
スケールバー50 µm。AUB群(E)では複数のCD138陽性形質細胞(黒矢印)がCSD部位の間質に浸潤している像、非AUB群(F)では陽性細胞がほとんど認められない像が対比されています。 

(G, H) 子宮内膜(uterine endometrium)のCD138免疫染色 
スケールバー50 µm。AUB群(G)と非AUB群(H)の子宮内膜本体での比較。両群ともCD138陽性細胞は少数で、CSD部位とは異なり子宮内膜本体では群間差が乏しいことが視覚的に示されています。 

(I–K) 病理所見の定量結果(棒グラフ) 
– (I) CSD部位の子宮内膜厚(mm):AUB群 約0.23 mm vs. 非AUB群 約1.02 mm、(P<.0001) 
– (J) CSD部位のCD31陽性血管領域の比率(%):AUB群 約5.77% vs. 非AUB群 約1.12%、(P<.0001) 
– (K) HPFあたりのCD138陽性形質細胞数:CSD部位ではAUB群 約11.3個 vs. 非AUB群 約4.5個で有意差あり、子宮内膜本体(Endometrium)では両群間に有意差なし 

略語:AUB: abnormal uterine bleeding、CD: cluster of differentiation、CSD: caesarean scar defect、HPF: high-power field 

なお、Figure 2のKパネルは、CD138陽性形質細胞の増加がCSD部位に限局しており、子宮内膜本体では群間差がないことを視覚的に示している点で、本研究の重要な知見の一つを構成しています。CSDが局所的な慢性炎症の温床であることを示唆する重要な図と言えます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 子宮鏡

# 帝王切開

# 帝王切開瘢痕症候群

# 反復着床不全(RIF)

# 慢性子宮内膜炎

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

妊娠中の両親の喫煙曝露と子どもの将来の不妊症リスク(Hum Reprod. 2026)

2026.04.07

米国における不妊症治療へのアクセスと出生率の実態(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.03.24

妊娠中のベンゾジアゼピン使用と妊娠転帰リスク(JAMA Intern Med. 2025)

2026.01.30

大豆摂取と腹腔鏡で確認された子宮内膜症リスクとの関連(Fertil Steril. 2025)

2025.12.24

プレコンセプションケアの人気記事

不妊ではない若年女性の自然妊娠する確率は?(Int. J. Environ. Res. Public Health 2020)

2020.08.14

妊活中の男性は、甘い飲み物の摂取に注意が必要です

2025.02.22

帝王切開子宮瘢痕症の定義(JAMA Netw Open. 2023)

2024.09.04

男性の飲料摂取と不妊治療成績:出生率との関連 (Andrology, 2025)

2026.01.17

甲状腺機能亢進・低下症は月経異常をおこすの?(Endocr J. 2010)

2021.11.04

米国における不妊症治療へのアクセスと出生率の実態(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.03.24

今月の人気記事

自然周期での小卵胞採卵は生殖医療成績を改善する(Fertil Steril. 2016) 

2023.10.16

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2021.09.11

日本の妊娠可能男性の精液基準値は?(BMJ Open. 2013)

2021.09.11

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

睡眠と精液検査② (論文紹介)

2022.08.13

不妊ではない若年女性の自然妊娠する確率は?(Int. J. Environ. Res. Public Health 2020)

2020.08.14