
はじめに
腟内プロゲステロンの児への長期的影響については不明でした。今回、双絨毛膜双胎に対する妊娠中の腟内プロゲステロン投与が、児の6-9歳時点での心理発達と認知機能に与える影響を検討したフォローアップ研究をご紹介します。
ポイント
双胎妊娠における腟内プロゲステロン投与(200mg/日・400mg/日)の長期投与は、6-9歳時点での児の心理的・認知的発達に有害な影響を与えませんでした。
引用文献
Perales A, et al. Am J Obstet Gynecol. 2025;233:313.e1-12. doi: 10.1016/j.ajog.2025.04.056.
論文内容
双絨毛膜双胎妊娠において妊娠20週から34週まで(または分娩まで)腟内プロゲステロン(200mgまたは400mg/日)の投与を受けた母親から生まれた生存児206名を対象とした多施設共同二重盲検ランダム化比較試験のフォローアップ研究です。参加者は腟内プロゲステロン200mg/日群75名、400mg/日群63名、プラセボ群68名でした。
6-18歳用子ども行動チェックリスト(CBCL/6-18)と非言語性知能評価のためのレーベン色彩累進マトリックステスト(RCPM)を用いて、6-9歳時点での行動・情緒的問題および認知機能を評価しました。母親、質問票収集者、データベース管理者は全て原試験での介入内容についてブラインド化されていました。
結果
CBCL/6-18で評価した11の精神病理学的症候群尺度の平均スコアにおいて、腟内プロゲステロン200mg/日群、400mg/日群、およびこれらを統合した群とプラセボ群との間に有意差は認められませんでした(すべてP値 >.05)。CBCL総スコアの平均値も、腟内プロゲステロン200mg/日群(31.08±22.58)、400mg/日群(37.48±28.59)、統合群(34.00±25.60)とプラセボ群(34.60±25.55)の間に有意差はありませんでした(それぞれP=0.38、0.54、0.87)。
Raven’s検査の平均パーセンタイルは、腟内プロゲステロン200mg/日群(63.11±27.03)および400mg/日群(60.40±31.51)でプラセボ群(59.40±30.64)よりもわずかに高値でしたが、統計学的有意差はありませんでした(それぞれP=0.44、0.85)。性別による解析でも、腟内プロゲステロン群とプラセボ群の間で精神病理学的症候群尺度、CBCL総スコア、Raven’s検査の平均パーセンタイルに有意差は認められませんでした。
私見
この研究の元となった試験(Serra V, et al. BJOG, 2013)では、腟内プロゲステロン投与群とプラセボ群の間で早産率や周産期有害転帰に有意差がなく、早産予防効果は認められませんでした。
3-6歳時点での先行研究では、McNamara et al.(PLoS One, 2015)のSTOPPIT研究のフォローアップで発達転帰に有意差がないことが報告されています。
Vedel et al.(Ultrasound Obstet Gynecol, 2016)のPREDICT研究では、双絨毛膜双胎において腟内プロゲステロン群で神経生理学的転帰が良好で、低ASQスコアのリスクが有意に低下する可能性が示されていました(OR 0.34; 95% CI 0.14-0.86)が、今回の研究ではそのような優位性はなかったことになります。ただ、私個人としては長期的に腟内プロゲステロンを使っても児予後に影響をあたえないことがわかっただけでも収穫あり、安心材料です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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