体外受精

2026.01.27

卵巣予備能低下女性に対する経皮的テストステロン治療のQOLへの影響(Hum Reprod. 2025)

はじめに

複数の研究で、卵巣予備能低下(DOR)女性では血清テストステロン値と卵巣反応性に相関があることが示されており、DOR女性にテストステロン補充が行われます。今回、DOR女性における経皮的テストステロン治療がQOLに及ぼす影響を評価した無作為化比較試験の二次解析をご紹介いたします。

ポイント

DOR女性に対する9週間の経皮的テストステロン治療(5.5mg/日)は、プラセボと比較して不妊関連QOLを改善しませんでした。

引用文献

Leathersich SJ, et al. Hum Reprod. 2025;00(00):1-8. doi: 10.1093/humrep/deaf233.

論文内容

DOR女性において経皮的テストステロン治療が不妊関連QOLを改善するかを評価することを目的とした、二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験(T-TRANSPORT試験)の事前計画された二次解析です。一次解析の主要評価項目は臨床妊娠率でした。T-TRANSPORT試験では、2015年4月から2022年8月の間にスペイン、ベルギー、デンマーク、スイスの10施設で316名のDOR女性が登録され、290名が無作為化されました。事前に計画された中間解析に基づき、70%の患者が治療を完了した時点で盲検下データが解析され、募集が中止されました。一次解析の結果、経皮的テストステロン前処置は卵巣刺激の結果に差をもたらさず、採卵数は両群で同等(平均±SD: 3.42±2.25 vs 対照群)であり、臨床妊娠率も改善しませんでした(参考文献: O-066 Transdermal testosterone prior to ovarian stimulation for in vitro fertilization. Hum Reprod. 2023)。
本二次解析では、この290名のうち治療前後でQOL調査を完了した213名(テストステロン群106名、プラセボ群107名)が解析に含まれました。対象は、Bologna基準に基づくDORを有し、体外受精治療を予定している18~43歳の女性でした。参加者は1%ゲルとしての経皮的テストステロン5.5mg/日またはプラセボに1:1の割合で無作為化され、卵巣刺激開始前に中央値60日間塗布しました。QOLは、介入開始前と介入終了後(卵巣刺激開始前)にFertiQoL質問票を用いて評価しました。FertiQoLは、不妊症女性専用のQOL評価ツールで、Total FertiQoL(全体的なQOL)、Core FertiQoL(コアとなるQOL)、Treatment FertiQoL(治療関連QOL)の3つの主要スコアと、複数のサブスケールで構成されています。

結果

テストステロン群(n=106)とプラセボ群(n=107)のベースライン特性に有意差はありませんでした。調整後の解析では、テストステロンはプラセボと比較してTotal FertiQoLスコア(全体的な不妊関連QOL)に有意な改善を示しませんでした(F(1,204)=0.07, P=0.79)。同様に、Core FertiQoLスコア(感情、心身、社会的側面を含むコアQOL、F(1,204)=1.49, P=0.22)およびTreatment FertiQoLスコア(治療環境や治療の忍容性に関するQOL、F(1,204)=0.88, P=0.35)においても有意差はありませんでした。さらに、個別のサブスケール(Emotional:感情への影響、Mind-Body:身体的健康・認知・行動への影響、Social:社会的要因への影響、Environment:治療環境、Tolerability:治療の忍容性)のいずれにおいても、テストステロンはプラセボに対する有益性を示しませんでした。治療終了時の総テストステロン値は、テストステロン群でプラセボ群より有意に高値でした(3.2±2.7 nmol/l vs 0.6±0.4 nmol/l, P<0.001)。

私見

DOR女性に対する経皮的テストステロン治療がQOLを改善しないようですね。
こちらに関しては賛否さまざまな意見がありますが、比較的改善しないとする報告の方が多そうです。
興味深いことに、T-TRANSPORT試験の一次解析では臨床妊娠率の改善も示されませんでしたが、これまでのメタアナリシスでは、テストステロン補充がDOR女性の出生率や臨床妊娠率を改善する可能性が示唆されています。例えば、Neves et al.のメタアナリシスでは、テストステロン前処置により採卵数が増加(平均差0.94個、95%CI 0.46-1.42)、臨床妊娠率が上昇(RR 2.07、95%CI 1.33-3.20)、出生率も上昇(RR 2.09、95%CI 1.11-3.95)したと報告されています(Neves et al. Am J Obstet Gynecol. 2022)(https://wfc-mom.jp/blog/post_1102/)。しかし、T-TRANSPORT試験という大規模RCTではこれらの効果が確認されませんでした。今までのメタアナリシスにはT-TRANSPORT試験が含まれていませんから、今回の結果を踏まえて結論がかわってきそうなのかどうか、ここは興味深いところです。
現在までのエビデンスを考慮すると、閉経前女性はテストステロン治療からwell-beingやQOLに関して利益を得る可能性は低いではと思います。テストステロン補充の副作用も、体毛の増加・ニキビ・気分の変化(イライラや攻撃性)などをふくめて様々ありますのでDOR女性に使用する際にはしっかりしたインフォームドコンセントをとっていくべきかと考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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