
はじめに
ART児の短期的・長期的健康アウトカムへの懸念が高まっています。小児における最も一般的な慢性疾患である喘息をはじめとするアトピー疾患は、遺伝的要因と環境要因の両方に影響されると考えられています。DOHAD理論によると、胎児期のさまざまな因子が臓器や組織の構造と機能にプログラムされた変化をもたらし、成人期の慢性疾患発症に影響を与える可能性があります。今回、台湾の大規模全国データベースを用いて、ART出生児のアトピー疾患発症リスクに関連するかを検討した後方視的コホート研究をご紹介いたします。ちなみに過去のART出生児とアレルギー疾患の関連性報告は結果がさまざまです。
ポイント
ART出生児は、自然妊娠と比較して喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の発症リスクが有意に高くなりました。過去の報告では意見が分かれており、今回の研究でも発症リスクが1.1倍程度にとどまります。
引用文献
Hsieh YC, et al. JAMA Netw Open. 2025;8(12):e2551690. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.51690.
論文内容
台湾の国民健康保険研究データベース、生殖補助データベース、母子健康データベースを用いた後方視的集団ベースのコホート研究です。2004年1月1日から2014年12月31日の間にART出生児を曝露群とし、母親の年齢、児の性別、出生月で1:4マッチングした自然妊娠出生児を対照群としました。データ解析は2023年12月1日から2025年11月1日に実施されました。主要評価項目はアトピー疾患の発症で、両群とも2020年12月31日まで追跡しました。潜在的交絡因子を調整するためにCox比例ハザード回帰モデルを使用しました。
結果
合計69,785児(ART出生群13,957児、対照群55,828児)が本研究に含まれ、出生時から追跡を開始しました。研究集団は女児47.5%、男児52.5%でした。ART出生群と対照群の平均(SD)追跡期間は、喘息で7.99(4.22)年と8.41(4.18)年、アレルギー性鼻炎で5.79(4.12)年と6.34(4.28)年、アトピー性皮膚炎で7.34(5.13)年と7.62(5.14)年でした。潜在的交絡因子を調整後、ART出生群は対照群と比較して、喘息(AHR、1.13[95%CI、1.09-1.18])、アレルギー性鼻炎(AHR、1.15[95%CI、1.12-1.18])、アトピー性皮膚炎(AHR、1.08[95%CI、1.05-1.12])のいずれも発症する可能性が高いことが示されました(すべてP<0.001)(喘息:ART群: 約33.9% 対照群: 約29.0%、アレルギー性鼻炎: ART群: 約62.6% 対照群: 約57.2%、アトピー性皮膚炎: ART群: 約32.4% 対照群: 約30.4%)。サブグループ解析では、新鮮胚で妊娠した児は凍結胚と比較してアレルギー性鼻炎発症リスクが高いことが明らかになりました(AHR、1.12[95%CI、1.06-1.19]、P<0.001)。
私見
本研究では、ART群において両親のアレルギー性鼻炎の家族歴が対照群より高く、妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症などの母体合併症、帝王切開分娩、多胎妊娠、低出生体重、早産の割合が有意に高いという背景がありました。これらの背景因子を調整後もARTと児のアトピー疾患発症リスクとの関連は維持されています。
ART出生児の喘息発症リスクに関する先行研究の結果は一貫していません。
スウェーデン(Finnström O, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2011)、英国(Carson C, et al. Hum Reprod. 2013)、ギリシャ(Guibas GV, et al. Clin Exp Allergy. 2013)からの研究ではART出生児と喘息発症リスクの関連が示されていますが、トルコ(Cetinkaya F, et al. Allergol Immunopathol. 2009)、デンマーク(Jäderberg I, et al. Paediatr Perinat Epidemiol. 2012)、オーストラリア(Wijs LA, et al. Reprod Biomed Online. 2022)、中国(Liu S, et al. Hum Reprod Open. 2024)からの研究では有意な関連は認められていません。
サブグループ解析において、ICSIは喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎のいずれの発症リスクとも関連していませんでした。この結果は、5~8歳まで追跡したオランダの研究(Knoester M, et al. Fertil Steril. 2008)と一致しています。
新鮮胚移植では凍結融解胚移植と比較して喘息とアトピー性皮膚炎には差がなく、アレルギー性鼻炎のみリスクが高いという結果が得られました。凍結融解胚移植と新鮮胚移植で呼吸器や免疫関連アウトカムに実質的な差がないとする先行研究(Luo QY, et al. Reprod Biomed Online. 2024、Terho AM, et al. Hum Reprod. 2022)がありますので、第一種過誤の可能性も否定できません。
患者様にART出生児はアレルギー疾患リスクが高いですか?と聞かれたら、結論はでていません。上がったとしても微々たる差である可能性が高いですくらいにとどめるのがよいのではないでしょうか。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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