
はじめに
生殖医療においても女性の肥満は自然妊娠および生殖補助医療の両方で妊娠予後を悪化させることが知られています。女性のBMIに応じて、初回出生または治療中断までに必要な卵子数、受精胚数、胚移植回数を累積出生率として解析した大規模な後方視的コホート研究です。
ポイント
女性のBMIが高いほど、出生を達成するために必要な卵子数、受精胚数、胚移植回数が増加し、また卵巣刺激に必要なゴナドトロピン投与量も増加するため、治療効率が著しく低下します。
引用文献
Bellver J, et al. Fertil Steril. 2025 Dec;124(6):1191-1200. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.07.022.
論文内容
スペインの15IVIRMAセンターで、2017年1月1日から2023年10月1日の間に、自己卵子とパートナー精子を用いてIVF/ICSIを受けた31,829名の女性(48,595卵巣刺激周期、35,430胚移植)を対象とした多施設後方視的観察コホート研究です。女性のBMIはWHO分類に従い、低体重(BMI<18.5 kg/m²)、正常体重(BMI 18.5-24.9 kg/m²)、過体重(BMI 25-29.9 kg/m²)、肥満(BMI≥30 kg/m²)に分類されました。主要評価項目は、女性BMIに応じた初回出生または治療中断までの累積出生率で、正常体重群を基準としました。
結果
卵巣刺激パラメータ: 総ゴナドトロピン投与量は、BMI上昇に伴い有意に増加しました(P<.001)。肥満女性では正常体重女性より約13%多い投与が必要です。一方、採卵日の血清エストラジオール値は、BMI上昇に伴い有意に低下しました(P<.001)。これは卵巣刺激抵抗性を示しています。しかし、最終的な採卵卵子数は全群で約9個、成熟卵子数も約7.5個と同等でした。
累積出生率:初回出生または治療中断までに必要な受精卵子数は、低体重群と正常体重群では同等でしたが、過体重群および肥満群では有意に多く、調整後ハザード比は過体重群0.94(95%CI 0.90-0.99)、肥満群0.84(95%CI 0.78-0.91)でした。
移植受精胚数も肥満群で多く、調整後ハザード比は過体重群0.89(95%CI 0.84-0.93)、肥満群0.76(95%CI 0.70-0.82)でした。
胚移植回数も肥満群で多く、調整後ハザード比は過体重群0.93(95%CI 0.88-0.98)、肥満群0.78(95%CI 0.72-0.84)でした。
受精率、胚盤胞到達率、良好形態胚盤胞の割合は全群で同等でしたが、胚移植あたりの流産率はBMI上昇に伴い有意に増加し、出生率は有意に低下しました。
感度分析: 4つのサブグループ(単一胚移植のみ n=11,664、Day 5移植のみ n=13,498、凍結融解胚移植のみ n=6,300、PGT-A実施 n=2,853)で感度分析を実施し、すべてのサブグループでBMI上昇に伴うハザード比低下が一貫して確認されました。特にPGT-A群でも傾向が保たれていることは、正倍数性受精胚選択だけでは肥満の悪影響を完全には克服できない可能性を示唆しています。
私見
近年、GLP-1受容体作動薬などの新しい肥満治療薬が注目されています。適切な減量速度と目標BMI、治療開始までの待機期間の最適化が課題です。一方で、減量による治療遅延は加齢という別の予後不良因子を導入するため(Rafael F, et al. Hum Reprod, 2023)、個別化されたアプローチが必要です。
Supplemental Tablesに細かく数字を記載してくれていますので、患者に話すうえで参考になる報告の一つだと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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