研究の紹介
参考文献
軽度の精液所見異常を伴う精索静脈瘤患者における精索静脈瘤手術と人工授精の有効性の比較:観察研究
Comparative efficacy of varicocelectomy and intrauterine insemination in varicocoele patients with mild semen abnormalities: An observational study.
Ma Y, 他. Andrology. 2026 Feb;14(2):487-495. doi: 10.1111/andr.70070. PMID: 40444428.
はじめに
精索静脈瘤を有する男性不妊症例において、治療の選択や順序に悩む場面は少なくありません。とくに精液所見が「軽度の異常」にとどまる場合、侵襲の少ない人工授精(IUI)を先行すべきか、それとも根本的な原因治療として精索静脈瘤手術を優先すべきかは、日常診療でも常にご夫婦との相談が必要なポイントです。
IUIは比較的簡便で短期間に結果が得られる一方、精液所見そのものを改善する治療ではありません。一方、精索静脈瘤手術は外科的介入を伴うものの、精子形成環境を改善し、自然妊娠の可能性も高めることができます。しかし、軽度の精液所見異常を伴う精索静脈瘤患者において、これら2つの治療法を直接比較したデータはこれまで十分とは言えませんでした。
今回紹介する論文は、まさにこの臨床的な悩みに正面から取り組み、精索静脈瘤手術とIUIの妊娠率・出生率を比較検討した点で非常に示唆に富む内容です。精索静脈瘤とIUIのどちらを先行すべきかを考えるうえで、日常診療に直結する重要な知見を提供してくれる論文といえるでしょう。
研究のポイント
- 精索静脈瘤を有し軽度の精液所見異常を認める男性を対象に、顕微鏡下精索静脈瘤手術と人工授精(IUI)の治療成績を後ろ向きに比較しました。
- その結果、精索静脈瘤手術群では精液所見が有意に改善し、妊娠率・出生率ともにIUI群(3周期まで)より高値でした。
- 軽度精液所見異常例においても、IUIに先行して手術を検討する意義が示唆されました。
研究の要旨
目的
軽度の精液所見異常を伴う精索静脈瘤患者において、顕微鏡下精索静脈瘤手術およびIUIが妊娠率および出生率に及ぼす影響を評価し、あわせて手術後の精液所見の変化を検討することを目的としました。
方法
5施設から顕微鏡下精索静脈瘤手術を受けた650例と、1施設でIUIを受けた700例を対象とした後ろ向きコホート研究を行いました。超音波検査で精索静脈瘤が診断され、総運動精子数が500万以上で、少なくとも1項目の精液所見のパラメータ異常を有する症例を対象としました。主要評価項目は臨床妊娠率および出生率とし、副次評価項目として手術後の精子濃度、運動率、総運動精子数の変化を解析しました。
結果
顕微鏡下精索静脈瘤手術群では、精子濃度、運動率、総運動精子数がいずれも有意に改善しました(表1)。妊娠率および出生率は、IUI群(3周期まで)と比較して手術群で有意に高値でした(表2)。多変量解析においても、手術は妊娠率および出生率の独立した改善を予測する因子でした。
結論
軽度精液異常を伴う精索静脈瘤患者において、顕微鏡下精索静脈瘤手術はIUIよりも精液所見および妊娠転帰の改善に有効でした。本結果は、治療選択を個別化する重要性を示すとともに、この患者群では手術を優先的に検討する根拠を支持するものです。


私見と解説
この研究は、精液所見が軽度異常の精索静脈瘤患者において、顕微鏡下精索静脈瘤手術がIUIと比較して妊娠率および出生率のいずれにおいても優れていたことを示しており、泌尿器科医の立場からは非常に心強い結果と感じます。精索静脈瘤が造精機能に与える影響は以前から指摘されてきましたが、「精液所見の軽度の異常」という、治療介入の是非を迷う集団においても、外科的治療の意義が示された点は臨床的価値が高いといえます。
一方で、この論文の結果をすべての症例にそのまま当てはめるには注意も必要です。この研究における女性パートナーの平均年齢は30〜31歳と比較的若く、卵巣予備能や妊孕性が保たれている集団であった点は重要な前提条件です。精索静脈瘤手術による精液所見の改善には一定の時間を要するため、女性年齢がより高いカップルでは、「待つこと」そのものが妊娠率低下につながる可能性があります。このような症例では、IUIや体外受精を含めた治療を早期に検討すべき場合も少なくありません。
したがって、本研究は「精索静脈瘤があり、精液所見が軽度異常で、かつ女性年齢が比較的若いカップル」において、IUIに先行して精索静脈瘤手術を検討する合理性を示したものと解釈するのが良いと思われます。治療方針の決定にあたっては、男性側の病態だけでなく、女性年齢や不妊期間、将来的な治療選択肢も含めた総合的な判断が必要で、この論文はその判断を支える重要なエビデンスの一つとして位置づけられると考えます。
一方この研究のLimitationとして、後ろ向き観察研究であり、女性年齢が比較的若い集団に限られている点や、IUIが最大3周期までに限定されている点には注意が必要です。また、「精液所見が軽度の異常」の定義やIUIプロトコールのばらつきなど、結果の一般化には一定の制約があります。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。