
はじめに
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)女性における肥満は最も一般的な症状の一つであり、不妊治療における体重管理の重要性が指摘されています。今回、PCOS女性および原因不明不妊女性が排卵誘発治療中に経験する短期的な体重変化と、それが出生率に与える影響について調査した研究をご紹介いたします。
ポイント
PCOS女性は排卵誘発治療中に平均2.2kgの体重増加を経験しますが、この体重増加は出生率との関連は認められませんでした。
引用文献
Vitek W, et al. Fertil Steril. 2020 Nov;114(5):1032-1039. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.002.
論文内容
原因不明不妊女性およびPCOS女性が排卵誘発治療を受ける際の短期的体重変化が出生率と関連するかを検討することを目的とした、無作為化試験の二次解析研究です。米国の多施設共同試験であるAMIGOS試験(原因不明不妊女性900名)とPPCOS II試験(PCOS女性750名)のデータを用いました。原因不明不妊女性には最大4サイクルのクロミフェン、レトロゾール、またはゴナドトロピンを用いた人工授精を、PCOS女性には最大5サイクルのクロミフェンまたはレトロゾールを用いた自己妊活を実施しました。体重測定は登録時および各治療開始時に実施されました。すべてのサイクルは連続的で、無作為化から24週以内に完了しました。主要評価項目は出生率でした。
結果
体重データは原因不明不妊女性856名とPCOS女性697名で確認できまし。登録時ベースライン特性として、PCOS女性は原因不明不妊女性と比較して若年(29.0歳 vs 32.0歳、P<0.001)で、BMIが有意に高値でした(35.0 vs 25.0、P<0.001)。ウエスト周囲径も高値(107.0 cm vs 83.0 cm、P<0.001)でした。平均体重変化は、登録時体重から第4サイクル開始時までで、原因不明不妊女性で-0.2±0.3kgであったのに対し、PCOS女性では+2.2±0.2kgでした。体重変化は治療薬の割り当てによる差は認められず、原因不明不妊女性ではクロミフェン、レトロゾール、ゴナドトロピンの間で差がなく(P=0.22)、PCOS女性ではクロミフェンとレトロゾールの間で差がありませんでした(P=0.52)。PCOS女性ではサイクルごとに進行性の体重増加が観察されました。
PCOS女性のうち115名(16.4%)が3kg以上の体重増加を経験し、296名(42.4%)が3kg未満の体重増加、286名(41.0%)が体重増加0kg以下(体重維持または減少)でした。3kg以上の体重増加を経験した女性は、登録時のBMIが高く(37.2 kg/m² vs 36.5 kg/m²、P<0.001)、ウエスト周囲径も大きく(110.0 cm vs 109.0 cm、P<0.001)、最大用量のクロミフェンまたはレトロゾールを投与される傾向があり(P<0.001)、より多くのサイクルを実施していました(P<0.001)。調整モデルでは、BMIの増加(OR 1.04、95%CI 1.01-1.07、P=0.02)と3サイクル以上の治療(OR 16.0、95%CI 1.79-143.6、P=0.01)が3kg以上の体重増加と関連していました。
PCOS女性697名中164名(25.1%)が出生に至り、そのうち3kg以上の体重増加があった115名中13名(11.3%)、体重増加がなかった286名中74名(25.9%)でした(P<0.001)。調整モデルでは、低いBMI、低い総テストステロン値、妊娠を試みた期間が短いことが出生と関連していました。3kg以上の体重増加は出生率と関連していませんでした(aOR 0.54、95%CI 0.26-1.13、P=0.10)。
私見
PCOS女性における体重増加のメカニズムについては、複数の生物学的要因が関与していると考えられています。PCOS女性の排卵誘発中の体重増加は、排卵誘発薬の直接的効果ではなく、PCOS女性のインスリン抵抗性異常など基礎的な代謝異常に起因している可能性を示唆しています。
不妊治療は体重増加するという偏見を避けて、患者が不安にならない適切な情報提供をおこなっていくことを心がけたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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