一般不妊

2026.04.11

慢性子宮内膜炎の分子診断:RT-PCRによる病原体検出の有用性(AJOG Glob Rep. 2024)

はじめに

慢性子宮内膜炎(CE)は、細菌感染などによる子宮内膜粘膜の持続的な炎症を特徴とし、生殖年齢女性の潜在的な不妊原因となります。CEは従来の臨床症状に乏しく、診断が困難です。不妊症、反復着床不全(RIF)、不育症(RPL)の女性はCE発症リスクが高いとされています。従来の診断法である子宮鏡検査、組織学的検査、細菌培養法にはそれぞれ限界があり、特に培養困難な病原体の検出は課題でした。今回、インド人女性500例を対象に、RT-PCRによる11種の主要病原体の分子診断と従来の培養法を比較した後方視的研究をご紹介いたします。

ポイント

RT-PCRによる分子診断は、培養困難な病原体を含むCE関連病原体の迅速かつ高感度な検出に優れ、従来の培養法(陽性率23%)に比べ高い検出率(63.6%)を示しました。

引用文献

Nandagopal M, et al. AJOG Glob Rep. 2024 Aug;4(3):100377. doi: 10.1016/j.xagr.2024.100377.

論文内容

慢性子宮内膜炎(CE)の診断において、11種の主要病原体を標的としたRT-PCRの有用性を評価し、従来の培養法との結果を比較することを目的としています。
異常出血、IVF不成功、反復着床不全、反復流産、不育症などの臨床症状を有する500例の患者を対象とした後方視的解析を行いました。2022年11月から2023年10月の期間に、子宮鏡検査で子宮内膜炎が疑われた患者から子宮内膜生検検体を採取しました。検体は異常出血群(116例)、反復着床不全/IVF不成功群(203例)、不育症群(181例)の3群に分類されました。対照群として、子宮内膜炎の既往のない50例が含まれました。分子診断では、E. faecalis、E. coli、S. aureus、S. agalactiae、M. hominis、M. genitalium、U. urealyticum、C. trachomatis、N. gonorrhoeae、結核菌(MTB)、非結核性抗酸菌(NTM)の11種の病原体を標的としました。

結果

PCR法では500例中318例(63.6%)が少なくとも1種の病原体に陽性を示した一方、培養法では115例(23%)が陽性でした。PCRで検出された主要病原体は、E. faecalis(19%)、S. aureus(9%)、E. coli(6.8%)、M. genitalium(6.2%)、NTM(5.2%)、M. hominis(5%)、S. agalactiae(4.2%)、U. urealyticum(4%)、C. trachomatis(2.4%)、MTB(1.2%)、N. gonorrhoeae(0.6%)でした。培養法ではE. faecalis(10.8%)、S. aureus(6.2%)、E. coli(3.8%)、S. agalactiae(2.2%)が検出されました。
臨床病態別では、異常出血群ではPCR陽性率28.4%(33/116例)、培養陽性率8.6%(10/116例)でした。反復着床不全群ではPCR陽性率64.1%(169/203例)、培養陽性率27.6%(56/203例)でした。不育症群ではPCR陽性率64.1%(116/181例)、培養陽性率27.1%(49/181例)でした。対照群では50例中1例のみがPCRでS. agalactiae陽性を示し、培養法では陰性でした。
診断精度の比較では、分子診断は感度100%、特異度95.74%、精度98.42%、PPV 97.55%、NPV 100%を示しました。一方、培養法は感度36.16%、特異度100%、精度59.4%でした。子宮鏡検査は感度100%であるものの特異度50%にとどまり、組織学的検査は感度97.48%、特異度100%でした。組織学的検査と分子診断の併用(一致結果)は感度100%、特異度95.74%、精度98.42%を示しました。

私見

CEの標準的診断法に関しては統一された基準が存在せず、培養法、子宮鏡検査、組織学的検査を同一個体に実施した場合に不一致が生じることを示されていて、これは多くの論文で課題として挙げられています。
もうひとつ、臨床的に確認されたCE症例330例中180例(54.5%)で標的病原体が検出されなかった点は重要です。この結果は、CEの病因が細菌感染のみに限定されず、子宮内膜脱落膜化の変化(Wu D, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2017)、免疫細胞構成の変化(Kitazawa J, et al. Am J Reprod Immunol. 2021)、サイトカイン調節異常やオートファジーの変化(Wang WJ, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2019)など、非感染性因子の関与を示唆しています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 不育症(RPL)

# 慢性子宮内膜炎

# クラミジア、性感染症

# 子宮内細菌叢検査

# 反復着床不全(RIF)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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