体外受精

2026.05.22

ワンステップ融解プロトコルの有効性と安全性(F&S Rep. 2026)

はじめに

胚のガラス化保存および融解は、生殖補助医療において必須の技術となっています。従来の多段階融解法(multi-step warming:MSW)は数百万件の胚で高い生存率が証明された確立された手法ですが、凍結保護物質(CPA)への長時間曝露は依然として卵子・胚に対して細胞毒性を有します。近年、CPA曝露時間と手技時間を大幅に短縮できるワンステップ融解法(one-step warming:OSW)が注目されており、生存率や妊娠率は従来法と同等で、手技時間を14分以上短縮できることが報告されています。一方で、これまでの報告の多くは予後良好な患者の高グレード胚に限定されており、形態不良胚や発育の遅い胚、高年齢患者由来胚などに対する安全性は未解明でした。今回、3施設1303個の胚を用いて、サブグループ別に有効性と安全性を検討したレトロスペクティブコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

ワンステップ融解は手技時間を90%以上短縮しつつ、低グレード胚や高年齢患者でも従来法と同等の生存率・妊娠率・出生率を示しました。

引用文献

Ebinger ER, et al. F&S Rep. 2026. doi: 10.1016/j.xfre.2026.04.004.

論文内容

ガラス化保存胚盤胞のワンステップ融解法が、生存率および臨床アウトカムに及ぼす影響を、連続症例コホートで検討することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。2023年8月から2025年4月に、オーストラリアのAdora Fertilityの3施設で凍結融解胚移植を受けた950例の患者から得られた1303個の単一胚移植が解析対象となりました。2024年7月までの全症例は従来の多段階融解法(1Mスクロース1分→0.5Mスクロース3分→洗浄液10分)で実施され、2024年7月以降は全症例がワンステップ融解法(1Mスクロース1分のみ)に切り替えられました。
ガラス化保存にはVitrifit™(CooperSurgical)を用い、溶液1(10mM HEPES、最大10分)、溶液2(8%エチレングリコール+8% DMSO、2分)、溶液3(16%エチレングリコール+16% DMSO+0.68Mトレハロース、20-30秒)の3段階で37℃で実施されました。ガラス化保存前にレーザーパルスまたは175/275µm Stripper Tips™(CooperSurgical)を用いた手動操作によりtrophectodermのcell-cell junctionで人工的に収縮(artificial collapse)させてから個別にガラス化保存されています。融解についてはMSWではSage(CooperSurgical)の1Mスクロース・0.5Mスクロース・MOPS溶液を、OSWではSage Warming Kit(CooperSurgical)の1Mスクロース溶液のみを使用しています。
凍結基準は、D5またはD6で胚盤胞発育に至った胚で、形態評価は拡張度・外観・細胞数に基づきG1(top quality)、G2(good quality)に分類されました。形態不良胚(poor morphology)はFigure 1のフローチャート上で解析対象から除外されており(MSW群n=7、OSW群n=7)、本解析はG1とG2の胚のみを対象としています。
主要評価項目は生存率、臨床妊娠率(CPR)、継続妊娠率(OPR)、出生率(LBR)で、母体年齢、胚形態、ガラス化日、受精方法でのサブグループ解析も実施しました。年齢の非線形効果を考慮するため一般化加法モデル(GAM)が用いられ、患者IDをランダム切片として組み込まれました。

結果

全体の生存率はMSW群98.6% vs OSW群98.4%(p=0.63)と同等でした。生化学的妊娠率は46.0% vs 47.5%(p=0.74)、CPRは43.2% vs 44.4%(p=0.87)、OPRは34.3% vs 37.9%(p=0.27)と両群間で有意差はありませんでした。年齢別解析では、32歳時点でCPR 42.6% vs 47.4%、OPR 34.9% vs 39.6%、42歳時点でCPR 25.8% vs 20.7%、OPR 12.6% vs 12.9%(いずれもp>0.05)と、どの年齢でも両群間に有意な交互作用は認められませんでした。胚形態別では、最高品質胚(G1)はCPR 52.5%(MSW)vs 55.9%(OSW)、OPR 45.7% vs 49.2%、良質胚(G2)はCPR 39.0% vs 39.4%、OPR 29.2% vs 33.0%(いずれもp>0.05)でした。G2胚はG1胚に比べ妊娠率が有意に低かった(平均46%低い、p<0.0001)ものの、両融解群間に有意差はありませんでした。Day 5胚とDay 6胚の比較では、D5胚はCPR 45.5% vs 46.5%、OPR 36.3% vs 40.2%、D6胚はCPR 27.3% vs 27.6%、OPR 18.2% vs 22.4%(いずれもp>0.05)でした。男性因子不妊によるICSI胚と通常IVF胚の比較でも、ICSI胚はCPR 42.3% vs 40.7%、OPR 35.6% vs 34.5%、IVF胚はCPR 45.7% vs 46.8%、OPR 35.5% vs 41.5%(いずれもp>0.05)と同等でした。出生率は1239件の移植中430児の出生(MSW: 234、OSW: 196)で、MSW 34.0% vs OSW 35.6%(年齢・胚質・ガラス化日で調整後 p=0.908)と同等でした。出生体重はMSW 3477.2g vs OSW 3574.6g(p=0.0619)、母体合併症率はMSW 17.1% vs OSW 16.8%(p=0.94)、新生児合併症率はMSW 2.1% vs OSW 1.0%(p=0.46)と、いずれも両群間に有意差はありませんでした。

私見

ワンステップ融解法は手技時間を90%以上短縮し、CPA曝露時間とroom air exposure時間を減らせます。本研究の特長は、これまでの報告では検討されていなかったD6胚、男性因子不妊由来胚、高齢患者由来胚を含むサブグループでも、従来法と同等の成績が得られたことを示した点にあります。(本当の低グレード胚は一部除外されています) 
先行報告との対比は以下のとおりです。 

  • 肯定派: 
    Liebermann J, et al. Reprod Biomed Online. 2024  
    ワンステップ法で生存率・CPRが同等で、OPR改善・流産率低下が報告されました。Manns J, et al. Fertil Steril. 2022  
    着床率・妊娠率は同等でした。 
    Lammers J, et al. Reprod Sci. 2025、Jiang VS, et al. J Assist Reprod Genet. 2024、Weidenbaum EM, et al. Fertil Steril. 2024  
    いずれも出生率同等を報告しています。 
    Fucci R, et al. Reprod Biomed Online. 2025  
    分割期胚のワンステップ融解で流産率低下が報告されました。 
    Shioya M, et al. Hum Reprod. 2025  
    分割期胚→胚盤胞発育率も同等としています。 
    Regincos M, et al. Hum Reprod. 2025 
    低グレード胚でも従来法と差がないことが示されました。 
  • 慎重派: 
    Ezoe K, et al. Reprod Biomed Online. 2025 
    in vitro実験で、ワンステップ融解により胚の過剰膨張(overexpansion)が生じ、栄養外胚葉の細胞溶解を起こす可能性を指摘しています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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