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2026.06.01

標準ガラス化凍結保存卵子における短縮融解プロトコルの紡錘体・ミトコンドリアへの影響(J Assist Reprod Genet. 2026)

はじめに

卵子のガラス化保存法は、緩慢凍結法と比較して高い生存率と発生能をもたらし、妊孕性温存および生殖補助医療の中核技術となっています。しかし従来のガラス化・加温プロトコルは凍結保護物質(CPA)への曝露が10~15分と比較的長く、室温・浸透圧ストレス・CPAの毒性などのリスクが懸念されてきました。近年、CPA曝露時間を短縮した融解プロトコルが代替法として注目されていますが、標準ガラス化法で凍結保存された成熟卵子に対する短縮加温法の有効性については、これまでヒト未成熟卵子・ドナー卵子・動物モデルを用いた限られた研究しか存在せず、結果も一致していませんでした。今回、STD-Vで凍結保存した自家成熟卵子を対象に、短縮融解・ワンステップ融解プロトコルの臨床的妥当性を評価した前向きシブリング研究をご紹介いたします。

ポイント

標準ガラス化法凍結卵子では、短縮融解/ワンステップ融解はSTD-Wと同等の生存率ながら、紡錘体・染色体異常の発生率が有意に高くなりました。

引用文献

Bartolacci A, et al. J Assist Reprod Genet. 2026. doi: 10.1007/s10815-026-03884-4.

論文内容

標準ガラス化法で凍結保存された卵子に対する短縮融解およびワンステップ融解(ワンステップ融解)プロトコルの臨床的妥当性を評価することを目的とした前向きシブリング研究です。社会的卵子凍結を選択した47例の患者から得られた成熟ヒト卵子436個を対象とし、すべて単一の標準ガラス化法プロトコルでガラス化保存されました。 
Experiment 1では標準加温(10分)と短縮融解(2分)を比較し、Experiment 2では短縮融解(2分)とワンステップ融解(1分)を比較しました。卵子生存率は融解1.5時間後に評価し、固定後に減数分裂紡錘体構成、染色体配列、紡錘体形態計測、TOMM20免疫染色によるミトコンドリア量を解析しました。さらに多段階融解(標準)、短縮融解、ワンステップ融解の3群を直接比較するプール解析も実施しました。 
本研究ではガラス化はKitazato、加温はIrvine Scientificという、メーカーが異なる組み合わせが用いられています。 

結果

生存率はプロトコル間で同等でした(多段階融解 142/158 [89.87%]、短縮融解 201/217 [92.62%]、ワンステップ融解 58/61 [95.08%]、すべての対比較でP>0.05)。一方、プール解析において正常染色体配列を示す卵子の割合は群間で有意差を認め(P=0.011)、調整解析では短縮融解およびワンステップ融解は多段階融解と比較して有意に低く(短縮融解 vs 多段階融解:P=0.037、ワンステップ融解 vs 多段階融解:P<0.001)、ワンステップ融解は短縮融解より低値でした(P=0.009)。正常紡錘体構成についても群間差を認め(P=0.007)、調整解析で短縮融解・ワンステップ融解共に多段階融解より有意に低値でした(短縮融解 vs 多段階融解:P=0.014、ワンステップ融解 vs 多段階融解:P=0.001)。紡錘体長は短縮融解・ワンステップ融解で多段階融解よりも長く(調整解析でいずれもP<0.001)、ワンステップ融解は短縮融解より短縮していました(P=0.026)。紡錘体極幅も短縮融解・ワンステップ融解共に多段階融解より有意に増大していました(いずれもP<0.001)。紡錘体赤道部の幅には有意差を認めませんでした。染色体配列と紡錘体構成のいずれも正常であった「正常MII装置」を示す卵子の割合は、調整解析で短縮融解(P=0.014)およびワンステップ融解(P=0.002)で多段階融解より有意に低下していました。ミトコンドリア量(TOMM20陽性シグナル)は短縮融解群で多段階融解と比較して有意に減少しており(0.49±0.33 vs 1.00±0.18、P<0.001)、プール解析でも短縮融解群で多段階融解より有意な低下を認めました(P<0.001)。一方でワンステップ融解と多段階融解、ワンステップ融解と短縮融解の間では有意差を認めませんでした。 

各加温プロトコルの詳細 

① 標準融解、合計10分
ステップ溶液濃度温度時間
1TS(thawing solution、1 mL)トレハロース 1.0 M37℃1分
2DS(dilution solution、300 µL drop)トレハロース 0.5 M室温(RT) 3分
3WS(washing solution、300 µL drop)室温(RT)5分
4WS(2回目、300 µL drop)室温(RT)1分

→ 合計 10分

② 短縮融解、合計2分 
ステップ溶液濃度温度時間
TS(1 mL) トレハロース 1.0 M 37℃ 1分 
DS トレハロース 0.5 M 37℃(STD-Wと異なり室温ではない) 1分 

→ 合計 2分(WSステップは省略) 

③ ワンステップ融解、合計1分
ステップ溶液濃度温度時間
1TS(1 mL)トレハロース 1.0 M37℃1分

→ 合計 1分(DS・WSステップとも省略、TSのみ)

私見

時間短縮融解方法は生存率は同等でも、細胞骨格レベルの障害は多段階融解法に比べて増加しており、発生能への影響が懸念されます。 
先行研究では結果が分かれています。 

  • Costa-Borges N, et al. Hum Reprod. 2025(肯定派): 
    多段階ガラス化+ワンステップ融解を行ったマウス・ウサギ卵子で正常な紡錘体形態・染色体配列を報告。ただし動物モデルである点が限界。 
  • Cobo A, et al. Reprod Biomed Online. 2025(肯定派): 
    ドナー卵子を用いたシブリングデザインで、多段階融解とワンステップ融解の間で受精率・胚盤胞形成率・出生率に差なしと報告。ただしドナー卵子は若年・高品質であり、自家卵子へ一般化できない点が指摘されている。 
  • Schiewe MC, et al. Reprod Biomed Online. 2024(否定派): 
    多段階ガラス化で凍結したGV卵子をワンステップ融解で加温した場合に生存率低下傾向を観察。GV卵子は成熟卵子と膜透過性が異なり比較に注意を要する。 

紡錘体は浸透圧変化、酸化ストレス、CPAによる細胞質変化に極めて鋭敏であることが古くから報告されています(Mullen SF, et al. Hum Reprod. 2004、Coticchio G, et al. Reprod Biomed Online. 2009、Bromfield JJ, et al. Hum Reprod. 2009、Mandelbaum J, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2004)。多段階ガラス化による長時間CPA曝露で過水和した卵子に対し、短縮融解で急激な再水和を加えると、細胞骨格の不安定化と染色体配列異常が生じやすくなる可能性があります。本研究で示された紡錘体長・紡錘体極幅の増大はまさにこの構造的擾乱を示唆しており、染色体配列異常の発生率上昇と整合的です。染色体配列異常は分離エラー(aneuploidy)の確立されたリスク因子であり(Holubcová Z, et al. Science. 2015、Nagaoka SI, et al. Nat Rev Genet. 2012)、受精率低下や胚停止につながりうる点で臨床的意義が大きいと考えられます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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