はじめに
近年、PIEZO-ICSI(ピエゾ素子を使った顕微授精:ICSI)は、卵子への物理的負担を最小限に抑えながら高い受精率を得られる技術として注目されています。 従来のICSIでは、卵子の膜を破る際に細胞質を吸引する必要がありましたが、PIEZO-ICSIではピエゾパルスによる微細な振動で膜に穴を開けるため、卵子へのダメージがより少ないと考えられています。 今回、私たちの施設を含む2施設で行われた大規模研究により、PIEZO-ICSIの妊娠・周産期予後の安全性が明確に示されました。
ポイント
- 対象:40歳未満の女性
- 規模:PIEZO-ICSI群 1,822周期/IVF参照群 1,701周期
- 結果:出生率(38.7% vs 37.9%)、先天異常率(1.6% vs 2.5%)に有意差なし
- 結論:PIEZO-ICSIはIVFと同等の安全性・妊娠成績を示した

引用文献
論文内容
この研究では、PIEZO-ICSIによる受精胚を用いた凍結融解単一胚盤胞移植の成績を、同期間に行われたIVF(体外受精)と比較しました。 対象は40歳未満の女性で、卵巣刺激法・培養条件・凍結融解法・移植方法は両群で同一です。
結果として、PIEZO-ICSI群の臨床妊娠率は49.9%、出生率は38.7%であり、IVF群(48.4%、37.9%)とほぼ同等でした。 また、出生児の平均体重(約3,011g)や妊娠週数(平均38.6週)、先天異常率(1.6%)もIVF群と差がなく、安全性が確認されました。
興味深い点として、PIEZO-ICSI群では女児の割合が有意に高く(53.2% vs 43.4%)、これは従来のICSIでも報告されている傾向と一致します。 多変量解析や傾向スコアマッチングなど複数の感度分析でも結果は一貫しており、PIEZO-ICSIが妊娠・出産において安全であることが示されました。
私見
PIEZO-ICSIは、卵子の膜に穴を開ける際の物理的ストレスを減らすという点で、技術的にも倫理的にも非常に理想的な方法です。 今回の大規模データにより、臨床的な安全性が示されたことは、私たち胚培養士にとって大きな安心材料です。 また、IVFと同等の周産期予後が得られたことは、患者さんにとっても「安心して選べる技術」であることを意味します。 今後は、長期的な児の発達や健康に関する追跡研究が進むことで、PIEZO-ICSIの価値がさらに確立されていくことが期待されます。
文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。