
はじめに
1984年の凍結受精胚由来児の出生以降、生殖補助医療は急速に発展し、凍結保存される余剰受精胚も世界的に増加しています。凍結技術の進歩、freeze-all戦略の普及、安全性確保のための移植胚数制限などが背景にあります。凍結胚は次回妊娠時の時に利用するか、国内では廃棄をする、研究提供をする、海外ではドネーションするなどの選択肢があります。今回、ポルトガルのART施設における6年間の受精胚処分決定パターンを家族構成、年齢、経時的傾向の観点から解析したレトロスペクティブコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
家族構成(特に女性カップル)と年齢は余剰凍結胚の取り扱い決定に影響する重要な因子であり、保管胚数の影響は限定的でした。
引用文献
Castilho B, et al. J Assist Reprod Genet. 2026 Feb;43:1163-1168. doi: 10.1007/s10815-026-03822-4.
論文内容
ポルトガルART施設における6年間の受精胚処分決定パターンを、家族構成・患者年齢・経時的傾向の観点から解析することを目的としました。2017年から2022年に作成された3,494人/組の受精胚処分同意書を対象としたレトロスペクティブ定量解析です。データは年、関係性グループ(異性カップル、女性カップル、シングル女性)、最終決定(保管継続、廃棄、他者提供、研究提供)で分類しました。連続変数の正規性を確認後、家族構成間の比較には一元配置分散分析を、カテゴリー変数の比較にはχ²検定を、交絡因子を考慮した解析には多変量回帰分析を使用しました。
結果
3,494人/組のうち、87.6%が異性カップル、8.8%が女性カップル、3.6%がシングル女性でした。女性カップルは他群より平均3歳高齢でした(p<0.01)。処分決定は関係性グループにより有意に異なりました。異性カップルでは廃棄26.5%、他者提供18.7%、研究提供15.9%でした。シングル女性では廃棄22.0%(異性カップルとの比較でp=0.29)、他者提供20.5%(p=0.42)、研究提供10.2%(p=0.26)と中間的な傾向を示しました。女性カップルでは廃棄率が15.9%と異性カップルより有意に低く(p=0.03)、他者提供率が31.8%と最も高く(p=0.007)、研究提供は17.2%(p=0.48)でした。
年齢は処分決定と関連し、保管継続を選択した患者の平均年齢は37.5歳、廃棄は38.9歳、他者提供は40.6歳、研究提供は39.1歳でした。
保管胚数は決定群間で平均3.5~3.8個と有意差を認めませんでした。
多変量解析でも年齢を交絡因子として調整しても家族構成による差は維持されました。
家族構成と年齢は受精胚の取り扱いに関する意思決定に影響する重要な因子である一方、保管受精胚数の影響は限定的と考えられました。
私見
女性カップルが他者提供を選択する傾向が強い背景として、自身がART利用者として配偶子提供を経験していることによる共感や連帯感を挙げています。一方、異性カップルで廃棄率が最も高くなる背景として、提供した受精胚から生まれた児が自身の子の遺伝的兄弟姉妹となることへの心理的抵抗を考察しています。
我が国では、受精胚を他者の生殖目的に提供する制度が整備されていません。今後、家族の多様性に応じて考えていなければいけない課題だなと思い当報告を読んでいました。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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