一般不妊

2026.07.07

Hirschsprung病女性における両側卵管留水症(J Pediatr Surg. 2018)

はじめに

Hirschsprung病は遠位腸管における神経節細胞欠如を特徴とする先天性神経堤症(neurochristopathy)であり、生児5,000人に1人の頻度で発症し男女比3〜4:1と男児に多く認められます。HD女性の長期的な産婦人科的予後に関する報告は限られており、骨盤内手術後の卵管機能障害が懸念されます。Hirschsprung病術後女性では両側卵管留水症の報告がありましたが、その関連性は系統的に検討されていませんでした。今回、Hirschsprung病女性における両側卵管留水症の発症と手術アプローチとの関係、および妊孕性への影響を検討した後方視的コホート研究をご紹介いたします。

ポイント

Hirschsprung病女性17例中5例に両側卵管留水症を認め、開腹手術群38.5%、経肛門的手術群0%で有意差はないものの、神経支配異常を含む病因が示唆されました。

引用文献

Palazón P, et al. J Pediatr Surg. 2018;53(10):1945-1950. doi: 10.1016/j.jpedsurg.2018.01.011

論文内容

Hirschsprung病女性における両側卵管留水症の発症と手術アプローチおよび妊孕性への影響を検討することを目的とした、単施設後方視的コホート研究です。
1980年以降に施設でフォローされた全Hirschsprung病女性患者の記録を後方視的に検討しました。初経を迎えた患者のみを対象として組み入れ、術式により腹会陰式手術群と経肛門的内直腸プルスルー手術群の2群に分類しました。両群間で卵管留水症の有病率、開腹術回数の中央値、フォローアップ期間中央値、および卵管留水症フリー生存率を比較しました。統計解析にはCox生存解析、Fisher正確検定、Wilcoxon順位和検定を用いました。

結果

Hirschsprung病女性29例のうち初経到達は19例で、画像検査と思春期のフォローアップ欠如の2例を除外し17例が解析対象となりました。腹会陰式手術群13例(Duhamel法7例、Soave法5例、Rehbein法1例)、経肛門的内直腸プルスルー手術群4例(全例TERPT)でした。フォローアップ期間中央値は腹会陰式手術群201ヵ月(126-422)、経肛門的内直腸プルスルー手術群111.5ヵ月(98-153)で腹会陰式手術群が有意に長期でした(p<0.009)。開腹術回数中央値は腹会陰式手術群3回(95%CI 2.4-4.6)、経肛門的内直腸プルスルー手術群0回(95%CI 0-1)で腹会陰式手術群が有意に多くなりました(p<0.003)。両側卵管留水症は腹会陰式手術群で5例(38.5%)、経肛門的内直腸プルスルー手術群で0例に認められましたが、統計学的有意差はありませんでした(p=0.261)。卵管留水症はすべて両側性で、診断時いずれも性的活動歴はありませんでした。Kaplan-Meier解析による卵管留水症を発症していない患者の割合にも両群間で有意差は認められませんでした(p=0.334)。卵管留水症5例の治療は個別化され、無治療経過観察(自然軽快)1例、片側卵管摘出術+反対側卵管子宮鏡下閉塞1例、両側卵管摘出術2例、両側膿瘍ドレナージ1例でした。挙児希望は3例で全例が両側卵管留水症症例でした。自然軽快した1例は26歳と30歳で2児を出産しましたが、両側卵管摘出例(19歳)と片側卵管摘出+反対側閉塞例(29歳)はいずれも体外受精を実施していました。

私見

Kazmi Z, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2015の小児・思春期卵管留水症62例のメタアナリシスでは、両側性は6例のみで、そのうち5例がHirschsprung病患者であり、Hirschsprung病と両側卵管留水症との強い関連が示唆されていました。
病因についてはdiscussionで二つの仮説が議論されています。一つは骨盤神経叢への外科的損傷仮説です。卵管峡部の3層平滑筋は仙骨子宮靭帯を走行する骨盤神経叢から、卵管膨大部・卵管采は卵巣神経叢から支配を受けており、Hirschsprung病のプルスルー手術における骨盤内剥離操作で枝が損傷を受け、卵管運動性が障害されうると考えられています。Versteegh H, et al. J Pediatr Urol. 2016のシステマティックレビューでもHirschsprung病患者における泌尿生殖器異常の合併率は6-25%と報告されており、骨盤内構造への影響が示唆されています。もう一つは内因性の神経堤細胞発生異常仮説です。Staiano A, et al. Dig Dis Sci. 1999はHD児における全身的な自律神経機能異常を報告し、Wedel T, et al. Neurogastroenterol Motil. 2006は重症大腸運動障害における腸管平滑筋自体の異常を示唆しました。Zhu L, et al. Acta Histochem. 2013は卵管留水症患者の卵管峡部における神経線維の減少を病理学的に証明しており、卵管運動性低下と神経支配異常との関連を裏付けています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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