
はじめに
PCOS女性はインスリン抵抗性、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの発症リスクが高いことは確立されていますが、高血圧および脂質異常症の発症リスクに関する大規模前向きデータは限られています。また、これまでの研究の多くは心血管・代謝合併症リスクを肥満と関連づけて解釈してきました。今回、スウェーデンの全国規模6レジストリを連結したマッチドコホートで、PCOS女性および高アンドロゲン血症(HA)表現型における高血圧・脂質異常症リスクを体重と独立して評価した研究をご紹介いたします。
ポイント
PCOS女性は体重と独立して高血圧(aHR 2.25)と脂質異常症(aHR 3.05)の発症リスクが上昇し、HA表現型ではそれぞれ約5倍・約8倍と顕著に増加します。
引用文献
Persson S, et al. Hum Reprod. 2026. doi: 10.1093/humrep/deag064.
論文内容
PCOSおよび高アンドロゲン血症(HA)PCOS表現型が高血圧と脂質異常症の発症リスクに及ぼす影響を、体重を考慮した上で評価することを目的とした、スウェーデン全国規模のマルチレジストリベース・マッチドコホート研究です。
スウェーデン国民患者登録、処方薬登録、医療出生登録、死因登録、総人口登録、教育登録の6つの全国登録データを連結しました。1950年から1999年生まれの女性のうち、1997年1月1日から2016年12月31日にPCOS(ICD-10 E282)、アンドロゲン過剰症(E281)、または無排卵性不妊(N970)の診断を受けた50,969人をPCOS群、出生月と居住地域でマッチさせた246,246人を非PCOS対照群としました。研究開始時年齢の中央値は28歳、追跡期間は最長20年(中央値6年)でした。PCOS群のうち、アンドロゲン過剰症の診断歴または抗アンドロゲン薬(シプロテロン酢酸エステル含有経口避妊薬、フィナステリド、エフロルニチン、デュタステリド、フルタミド、ビカルタミド)の処方歴があるものをHA表現型、それ以外を正常アンドロゲン血症(NA)表現型に分類しました。スピロノラクトンは抗アンドロゲン薬としても降圧薬としても使用されるため、処方患者は除外しています。主要アウトカムは高血圧(ICD-10 I10または降圧薬処方)と脂質異常症(ICD-10 E78または脂質低下薬処方)の新規発症としました。出生時期、出生国、教育レベルで調整し、BMI調整(Model 1)または肥満診断調整(Model 2)の2モデルでCox回帰分析を行いました。
Outcome:主要アウトカムは追跡期間中の高血圧および脂質異常症の新規発症としました。
結果
追跡期間中に高血圧1,980例、脂質異常症510例の新規発症が認められました。
高血圧の罹患率は非PCOS群が1,000人年あたり2.12(95%CI 2.05-2.20)であったのに対し、PCOS群では5.91(95%CI 5.65-6.17)と上昇していました(P<0.001)。
脂質異常症の罹患率も非PCOS群0.37(95%CI 0.34-0.40)に対しPCOS群1.49(95%CI 1.36-1.62)と上昇しました(P<0.001)。
PCOS女性の高血圧発症リスクはBMI調整でaHR 2.08(95%CI 1.92-2.25)、肥満調整でaHR 2.25(95%CI 2.13-2.39)と上昇し、脂質異常症発症リスクはそれぞれaHR 2.84(95%CI 2.36-3.40)、aHR 3.05(95%CI 2.69-3.46)でした。
表現型別解析では、HA-PCOS女性は非PCOS女性と比較して高血圧リスクがBMI調整でaHR 5.91(95%CI 5.09-6.86)、肥満調整でaHR 5.51(95%CI 4.97-6.10)と約6倍に増加していました。NA-PCOS女性ではそれぞれaHR 1.77(95%CI 1.63-1.94)、aHR 1.94(95%CI 1.83-2.07)でした。脂質異常症についてもHA-PCOS女性はBMI調整でaHR 7.32(95%CI 5.28-10.16)、肥満調整でaHR 7.82(95%CI 6.34-9.64)と7-8倍のリスクを示し、NA-PCOS女性ではaHR 2.47(95%CI 2.04-3.00)、aHR 2.62(95%CI 2.29-2.99)でした。HA-PCOS女性は高血圧(32±7.4歳)および脂質異常症(32±7.6歳)の診断時平均年齢が、NA-PCOS女性および非PCOS女性(いずれも35±8.2〜8.3歳)と比較して有意に若年でした(P<0.001)。非PCOS女性のみに限定した感度解析では、過体重・肥満による高血圧・脂質異常症リスクの上昇は2-3倍程度にとどまり、PCOS特にHA表現型によるリスクが肥満よりはるかに大きいことが確認されました。
私見
PCOSはRotterdam基準(2003年)により、①高アンドロゲン血症(HA)、②排卵障害(OD)、③多嚢胞性卵巣形態(PCOM)の3項目のうち2項目以上で診断されます。この組み合わせから4つの表現型(A〜D)に分類され、心血管・代謝リスク評価では高アンドロゲン血症の有無で大別する手法が広く用いられています。HAを伴うA・B・CをHA-PCOS(PCOS全体の約75%)、Dのみを正常アンドロゲン血症型のNA-PCOSと呼びます。
本研究ではレジストリ制約上、4表現型に細分化できないため、アンドロゲン過剰症診断歴または抗アンドロゲン薬処方歴の有無でHA/NAの2群に分類しています。
先行のPCOSリスクに対するシステマティックレビューでは高血圧リスクに関する結論が分かれており、Pourahmad B, et al. BMC Womens Health. 2025ではBMIと独立した高血圧リスク上昇を支持する一方、Pan X. Gynecol Endocrinol. 2023では関連を認めず、Millán-de-Meer M, et al. Hum Reprod Update. 2023では心血管・代謝合併症の主因は肥満・過体重と結論付けていました。
HA表現型における脂質プロファイル悪化病態機序としては、androgen excessによるインスリン抵抗性増悪、内臓脂肪蓄積、肝リパーゼ活性化を介した脂質合成促進、脂質・ステロイド合成遺伝子のエピジェネティック変化、異所性脂質沈着による慢性炎症、テストステロンによるレニン上昇とインスリンに伴うアルドステロン上昇が示唆されています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。