
はじめに
ICSIは1992年の報告以来ARTの中核を担う技術です。PIEZO-ICSIは平面先端のピペットを用い、ピエゾパルスによる極めて速いサブミクロンレベルの吸引で透明帯と卵細胞膜を破断するため、細胞質吸引を必要としません。PIEZO-ICSIは35歳以上や予後不良群、また同胞卵を用いた多施設研究で受精率や良好胚発生率の改善が報告されてきました。しかしながら妊娠予後・周産期予後に関する大規模なデータは限られています。今回、亀田IVFクリニック幕張・亀田総合病院から、PIEZO-ICSI後の凍結融解単一胚盤胞移植における妊娠予後・周産期予後を報告した大規模後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
40歳未満女性のPIEZO-ICSI後の凍結融解単一胚盤胞移植は、出生率38.7%・先天奇形率1.6%と良好で、同施設のIVF群と同等の妊娠予後・周産期予後を示しました。
引用文献
Hiraoka K, et al. J Assist Reprod Genet. 2026. doi:10.1007/s10815-026-03915-0.
論文内容
日本国内2施設(亀田IVFクリニック幕張、亀田総合病院)で2016年6月から2023年8月までに実施された凍結融解胚移植を対象とした後方視的コホート研究です。対象は採卵時年齢40歳未満、Day5またはDay6胚盤胞による単一胚移植、自然周期またはホルモン調整周期での移植としました。新鮮胚移植、二段階移植、二胚移植、Day1のPIEZO-ICSI胚を用いた周期は除外しています。本期間中、両施設では標準ICSIは実施されておらず、ICSIはすべてPIEZO-ICSIで行われました。PIEZO-ICSIは男性因子(乏精子症・精子無力症・奇形精子症またはその合併)、過去のIVFでの受精障害、または患者希望に基づいて選択され、IVFはWHO第5版基準を満たす精液所見の症例で実施されました。培養は単一培養液(ONESTEP Medium、NAKA Medical)、ガラス化はCryotop法(Kitazato社のガラス化・加温液)で行い、加温胚はすべてレーザーによる透明帯50%程度の補助孵化を施行しました。主要評価項目は臨床妊娠率と出生率で、感度分析として初回FET限定解析、傾向スコアマッチング(PSM)、男性因子有無別の層別解析、多変量ロジスティック回帰を実施しました。
結果
対象はPIEZO-ICSI群1,072例1,822周期、IVFリファレンス群996例1,701周期でした。両群間で採卵時母体年齢(34.4±3.5歳 vs. 34.4±3.5歳;P=0.82)、BMI(21.5±3.3 vs. 21.5±3.2 kg/m²;P=0.76)、AMH(2.9±2.8 vs. 2.9±2.7 ng/mL;P=0.55)、採卵数(12.0±6.9 vs. 12.5±7.9;P=0.51)は同等でした。移植周期回数は統計学的差を認めましたが(1.8±1.2 vs. 1.7±1.0;P<0.001)、絶対差は0.1周期と臨床的意義は乏しいと考えられました。男性因子の割合はPIEZO-ICSI群で有意に高値でした(68.4% vs. 33.9%;P<0.001)。
PIEZO-ICSI群の生化学妊娠率は59.8%(1,089/1,822)、臨床妊娠率は49.9%(910/1,822)、出生率は38.7%(706/1,822)、流産率は20.0%(182/910)でした。これらはIVFリファレンス群(生化学妊娠率59.9%;P=0.95、臨床妊娠率48.4%;P=0.38、出生率37.9%;P=0.60、流産率18.9%;P=0.59)と同等でした。
PIEZO-ICSI群の出生706例における周産期予後は、帝王切開率35.0%(247/706)、妊娠合併症率23.8%(168/706)、37週未満早産率8.8%(62/706)、出生体重3,011.4±467.9 g、在胎週数38.59±1.95週、先天奇形率1.6%(11/706)でした。これらもIVFリファレンス群(帝王切開率34.8%;P=0.95、妊娠合併症率25.8%;P=0.41、早産率10.1%;P=0.43、出生体重3,022.8±469.5 g;P=0.39、在胎週数38.61±2.09週;P=0.45、先天奇形率2.5%;P=0.25)と同等でした。先天奇形は両群とも心血管系・四肢・腎尿路・消化器・染色体異常など多様で、PIEZO-ICSI群に特定異常への偏在は認めませんでした。注目すべき点として、女児の割合はPIEZO-ICSI群で有意に高値でした(53.2% [370/695] vs. 43.4% [278/641];P<0.001)。
感度分析でも結果は一貫しており、初回FET限定解析(PIEZO-ICSI 930周期 vs. IVF 971周期)では臨床妊娠率55.4% vs. 53.1%(P=0.33)、出生率44.7% vs. 41.1%(P=0.12)、女児割合52.9% vs. 41.7%(P=0.002)でした。母体年齢でPSMを行った1,700ペアでは、出生率37.1% vs. 37.9%(P=0.65)、女児割合60.2% vs. 43.4%(P<0.001)でした。男性因子の有無別層別解析でも、男性因子あり群(PIEZO-ICSI 39.6% vs. IVF 39.2%;P=0.88)、男性因子なし群(36.8% vs. 37.2%;P=0.92)と同等でした。多変量ロジスティック回帰では、母体年齢・移植周期回数・Day6胚・ホルモン調整周期で調整後のPIEZO-ICSI vs. IVFのaORは1.056(95% CI:0.917–1.224)でした。なお出生に関連する有意因子として母体年齢(aOR 0.905;95% CI:0.888–0.925/年)、移植周期回数(aOR 0.852;95% CI:0.794–0.906/周期)、Day6胚(aOR 0.514;95% CI:0.410–0.665、Day5基準)が同定されました。
私見
当グループで勤務している平岡はライフワークとしてPIEZO-ICSIの報告を積み上げてきました。まだ、何点かつめなくてはいけない部分がありますが、世界で安定的に普及するために発信をし続けていきたいと思います。
Hiraoka K, Kitamura S. Clinical efficiency of Piezo-ICSI using micropipettes with a wall thickness of 0.625 μm. J Assist Reprod Genet. 2015;32(12):1827-1833. doi:10.1007/s10815-015-0597-9.
Hiraoka K, Kitamura S, Otsuka Y, Kawai K, Harada T, Ishikawa T. Effects of sperm direction in Piezo-ICSI on oocyte survival, fertilization, embryo development and implantation ability in humans: a preliminary study. J Obstet Gynaecol Res. 2018;44(10):1963-1969. doi:10.1111/jog.13727.
Hiraoka K, Isuge M, Kamada Y, Kaji T, Suhara T, Kuga A, et al. Piezo-ICSI for human oocytes. J Vis Exp. 2021;(170):e60224. doi:10.3791/60224.
Zander-Fox D, Lam K, Pacella-Ince L, Tully C, Hamilton H, Hiraoka K, et al. PIEZO-ICSI increases fertilization rates compared with standard ICSI: a prospective cohort study. Reprod Biomed Online. 2021;43(3):404-412. doi:10.1016/j.rbmo.2021.05.020.
Hiraoka K, Uchida N, Ishikawa T, Kawai K. Value of meiotic spindle imaging on fertilization and embryo development following human oocyte Piezo-ICSI. Fertil Reprod. 2022;4(1):26-31. doi:10.1142/S2661318222500049.
ICSI児は女児がやや多いのは過去の報告を見ても間違いなさそうです。微々たる差ですが。傾向や原因はわかっていません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。