今回は顕微授精で卵子の中に入れる精子を選ぶときに使うPVPを紹介します。
PVPは略語で正式名称はポリビニルピロリドンです。PVPは水に溶けると強い粘り気を出す物質で、スティックのりの中にも含まれています。もちろん精子選びで用いられるのは医療用に精製されたものになります。精子選びでは培養液の中でPVPを7%濃度にして使われることが多く、この中で精子を泳がせるとPVPの粘り気により精子の動きはゆっくりになります。
まずはこちらの動画をご覧ください。両画面の左側に見える白い領域は培養液との境目(培養液の淵)になります。精子選びでは、この培養液の淵を利用して精子の動きを観察しています。倍率は400倍になります。左側はPVPなしのサラサラの培養液、右側はPVPありの粘り気のある培養液になります。どちらも、同じ方の同じ精液を撮影したものです。左側の精子は動きが速く、右側の精子は動きが遅いことがお分かりいただけると思います。このように精子の動きをゆっくりにすることにより、精子選びで大切な精子の頭の形をより正確に知ることができます。きれいな米粒のような形をした精子を選ぶようにしています。これが精子選びでPVPを使う一番の理由になります。
こちらの動画の倍率は1000倍になります。こちらも400倍の動画と同じ精液を撮影したものです。精子の頭の中にある、丸い穴のような部分(空胞)も良く見えます。なるべく空胞の数が少なく、なるべく空胞が小さい精子を選ぶようにしています。PVPの粘り気と高倍率により、より良い精子選びを行えます。
当院では、顕微授精の精子選びに全例でPVPを使用しています。その顕微授精1,822周期と、PVPを使わない体外受精1,701周期を比較した研究では、出生率(38.7%と37.9%)にも先天異常率(1.6%と2.5%)にも差がありませんでした。PVPそのものの影響を検証した研究ではありませんが、少なくとも出生予後の面では、PVPを顕微授精に使うことで大きな問題は生じていないと考えています。
今回は顕微授精の精子選びに使うPVPを紹介しました。少しでも体外受精技術のことを知って頂けたら嬉しいです。
引用文献
Hiraoka K, Osugi M, Sato M, Kamada Y, Nakajo H, Sujino T, Komiya A, Nako Y, Takayanagi Y, Tajima M, Ogawa T, Ohuchi K, Hayashi M, Kawai K. Pregnancy and perinatal outcomes following PIEZO-ICSI with vitrified-warmed single blastocyst transfer: a retrospective cohort study. Journal of Assisted Reproduction and Genetics, 2026; Published online May 23, 2026. https://doi.org/10.1007/s10815-026-03915-0
文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 生殖補助医療管理胚培養士)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。