
はじめに
妊活中の食事で「どんな油・脂をとればよいか」は、多くの方が関心を持つテーマです。なかでもω3系脂肪酸(青魚やサプリに含まれる脂)は妊娠に良いと言われ、サプリを飲む方も少なくありません。しかしヒトでの根拠は一定せず、本当に効くのか、どの種類のω3が大切なのかははっきりしていませんでした。今回ご紹介するのは、食事のアンケートではなく実際の血液中の脂肪酸濃度を測定し、ART(成績との関連を前向きに調べた米国の研究です。脂肪酸を細かく分けて検討することで、「どの油が妊娠率と結びつくのか」を浮かび上がらせています。
ポイント
青魚に多い長鎖ω3-PUFA(特にEPA)の血中濃度が高い女性ほど、ART臨床妊娠率・出生率が高い一方、植物由来のω3であるALAは逆に妊娠率低下と関連しました。
引用文献
Y.-H. Chiu, et al. Hum Reprod. 2018 Jan;33(1):156-165. doi: 10.1093/humrep/dex335.
論文内容
血清の多価不飽和脂肪酸(PUFA)――ω3-PUFAとω6-PUFA――がART成績と関連するかを検討した前向きコホート研究(EARTH Study)です。マサチューセッツ総合病院不妊センターで実施され、コホートから無作為抽出した100人の女性を対象に、採血から1年以内に施行された136周期のARTを解析しました。血清脂肪酸は刺激周期のDay3~9に採取した検体をガスクロマトグラフィーで測定し、総脂肪酸に対する割合(%)で表しました。主要アウトカムは開始周期あたりの着床・臨床妊娠・出生の確率とし、年齢、BMI、喫煙、身体活動、マルチビタミン使用、出産歴を調整したクラスター重み付けGEEモデルで解析しました。
下記を分けて結果では記載しておりますので注意してください。
血清ω3-PUFA(総ω3)= ALA + EPA + DPA + DHA
血清長鎖ω3-PUFA = EPA + DPA + DHA(ALAを除く)
総ω3から、植物由来の短鎖ω3であるALAを除いたものが「長鎖ω3」です。EPA・DHA・DPAはいずれも魚由来の長鎖脂肪酸で、ALA(亜麻仁油・えごま油などに多い)とは体内での挙動が異なります。
結果
血清ω3-PUFA濃度の中央値[25、75パーセンタイル]は総脂肪酸の4.7%[3.8%、5.8%]でした。多変量調整後、血清長鎖ω3-PUFA濃度が1%増えるごとに、臨床妊娠と出生の確率はそれぞれ8%(95%CI:4%、11%)および8%(95%CI:1%、16%)増加しました。この正の関連は主にEPAによるもので、血清EPA濃度が1%増えるごとに臨床妊娠と出生の確率はそれぞれ10%(95%CI:0%、20%)および15%(95%CI:5%、26%)増加しました。一方、植物由来のω3であるALA濃度は臨床妊娠率の低下と関連し、1%増加あたりのRRは0.47(95%CI:0.24、0.92)でした。食事面の解析(168人、297周期)では、飽和脂肪酸からのエネルギー1%を長鎖ω3-PUFAに置き換えると出生のRRは2.37(95%CI:1.02、5.51)でした。長鎖ω3-PUFAの主な摂取源は脂の多い魚(50.8%)と魚油サプリメント(25.8%)でした。血清ω6-PUFA、ω6/ω3比、LA/ALA比、総PUFAはART成績と関連しませんでした。血清長鎖ω3-PUFAは最高エストラジオール値・採卵数・受精率・受精胚の質とは関連しませんでしたが、血清LA(リノール酸, ω6系)は総採卵数およびMII卵子数の低下と逆相関しました。
私見
積極的にとりたい:青魚(サバ、サケ、イワシ、ツナなど脂の多い魚)。これらに多いEPA・DHA(長鎖ω3)が、妊娠率・出生率の高さと結びついていました。魚油(フィッシュオイル)サプリも同じ長鎖ω3の供給源です。同じ「ω3」でも、亜麻仁油・えごま油・くるみなどに多い植物由来のALAは、血中濃度が高いほど妊娠率がむしろ低い傾向でした。ALAは体内でごく一部しかEPA・DHAに変換されないため、「ω3だから何でも良い」わけではない点が重要です。サラダ油・大豆油などに多いω6(リノール酸)や、ω3とω6の比は、妊娠・出生率とは関連しませんでした(採卵数とはやや逆相関)。つまり本研究のメッセージは「ω3を増やそう」ではなく、「魚由来のEPA・DHAを意識して増やそう」という点に集約されます。
肯定的な報告(Mirabi P, et al. Lipids Health Dis, 2017、Hammiche F, et al. Fertil Steril, 2011)も、否定的な報告(Jungheim ES, et al. J Clin Endocrinol Metab, 2013)もあるので一定の見解が得られていないのが実情ですが、他の周産期予後との関連をみてもω3系脂肪酸をとっておけば間違いなさそうですね。
機序面では、ω3-PUFAは抗炎症性の3系列プロスタグランジンの前駆体であり、着床に重要な子宮内環境のPG組成に影響しうること、ステロイド産生やω6経路との競合を介して生殖機能に作用しうることが論じられています。
今回のデータは2007年から2013年のデータであること、ロング法、初期胚複数胚移植主体であることから、胚移植に切り出した成績を見てみたいですね。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。