プレコンセプションケア

2026.10.05

血清オメガ3・オメガ6脂肪酸濃度と妊孕性(Hum Reprod. 2020)

はじめに

オメガ3・オメガ6不飽和脂肪酸は体内で合成できず食事から摂取が必要な必須多価不飽和脂肪酸(PUFA)です。両者ともステロイドホルモンの前駆体であるコレステロールやプロスタグランジンの供給源として、ステロイド産生、卵胞成熟、排卵、卵管運動、着床、妊娠維持など多様な生殖過程に関与すると考えられています。
ヒトでの自然妊娠に関する知見は食事摂取量を扱った研究に限られ、結果も一定しません。とりわけ血清濃度と自然妊娠の関連を検討した報告は存在しませんでした。今回、血清オメガ3・オメガ6濃度と自然妊娠・流産・卵巣予備能との関連を調べたnested case–control studyをご紹介いたします。

ポイント

血清オメガ3・オメガ6濃度は自然妊娠率、流産リスク、卵巣予備能(AMH)のいずれとも有意な関連を認めませんでした。

引用文献

Jamie Stanhiser, et al. Hum Reprod. 2020 Apr;35(4):950-957. doi: 10.1093/humrep/dez305.

論文内容

血清オメガ3・オメガ6必須脂肪酸濃度が妊娠成立の確率と関連するかを検討することを目的とした、前向きtime-to-pregnancyコホート研究(Time to Conceive:TTC、2008〜2015年)にネストされた症例対照研究です。
方法として、不妊既往のない30〜44歳で妊娠を試み始めて3か月未満の女性を登録し、妊娠終了または約1年の妊活を追跡しました。TTCコホート605名から、3周期以内に妊娠した「fertile群」(n=50)、4〜12周期で妊娠した「subfertile群」(n=100)、12周期以内に妊娠しなかった「infertile群」(n=50)の計200名を無作為抽出しました。卵胞期早期に採取した血清を液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)で解析し、オメガ3(ALA、EPA、DHA)およびオメガ6(LA、DGLA、AA)濃度を測定しました。主要評価項目は家庭用妊娠検査の陽性、副次アウトカムは流産と血清AMH値です。fecundability ratio(FR)はdiscrete-time Cox比例ハザードモデルで推定し、流産のORはロジスティック回帰で算出、脂肪酸濃度とAMH(自然対数変換)の関連はPearson相関で解析しました。

結果

200名1321周期が解析され、平均年齢は33.27±3.20歳でした。オメガ3、オメガ6、およびオメガ6:オメガ3比の平均値は、fertile・subfertile・infertileの3群間で有意差を認めませんでした。妊娠と各オメガ3脂肪酸(ALA、EPA、DHA)、各オメガ6脂肪酸(LA、DGLA、AA)濃度との間に関連はなく、年齢調整FRはいずれも約1.0でした。流産(n=36)群は出生群(n=114)よりEPA濃度が有意に高値でしたが(0.06±0.005 μmol/ml vs. 0.04±0.003 μmol/ml; P=.030)、年齢・層を調整後は流産リスクとの有意な関連を認めませんでした(EPAの年齢調整OR 1.32; 95%CI 1.00–1.47)。いずれの脂肪酸濃度も年齢調整後の流産オッズと関連せず、各脂肪酸濃度とAMHとの間にも有意な相関を認めませんでした(すべてP>0.05)。

私見

参考論文は以下のようになっています。 

肯定派(摂取量で好影響)

  • Wise LA, et al. Am J Epidemiol. 2018 
    PRESTO:北米コホートでオメガ3摂取増と高fecundability 
  • Mumford SL, et al. Am J Clin Nutr. 2016 
    Biocycle:オメガ3摂取増で無排卵リスク低下 
  • Chiu YH, et al. Hum Reprod. 2018 
    EARTH:血清オメガ3とART妊娠・出生率が正の関連 

否定派・関連なし

  • Chavarro JE, et al. Am J Clin Nutr. 2007 
    NHS-II:排卵障害不妊との関連なし 
  • Wise LA, et al. Am J Epidemiol. 2018 
    Snart Foraeldre Denmark:関連なし。ただし元々の摂取量が高く閾値効果の可能性 

Gaskins AJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2018(LIFE)では前向きの魚介摂取がfecundityと関連したものの、ベースライン摂取は関連せず、ベースライン採血を用いた本研究の陰性結果と整合的です。 
 
なお、油についてのおさらいです。 
オメガ3・オメガ6脂肪酸は、いずれも多価不飽和脂肪酸(PUFA)であり、飽和脂肪酸は含まれません。「オメガ3」「オメガ6」という分類自体が、炭素鎖のメチル末端(ω端)から数えて最初の二重結合がどの位置にあるか(3番目か6番目か)を示すものです。つまり定義上、必ず二重結合(不飽和結合)を複数持つことが前提であり、二重結合のない飽和脂肪酸がオメガ3・オメガ6に分類されることはありません。 
本論文で測定された脂肪酸も整理すると、オメガ3はALA(α-リノレン酸、二重結合3個)、EPA(5個)、DHA(6個)、オメガ6はLA(リノール酸、2個)、DGLA(3個)、AA(アラキドン酸、4個)で、すべて二重結合を2個以上持つ多価不飽和脂肪酸です。参考までに脂肪酸全体は、二重結合の有無で飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸など)と不飽和脂肪酸に大別され、不飽和脂肪酸はさらに二重結合が1個の一価不飽和脂肪酸(オレイン酸など=オメガ9)と、2個以上の多価不飽和脂肪酸(オメガ3・オメガ6)に分かれます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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