はじめに
ホルモン調整周期胚移植を行う際、黄体補充(プロゲステロン投与)の議論は多くなされていますが、エストロゲン投与方法については触れられないことが多いです。
私たちは経口もしくは経皮吸収型のエストロゲン製剤を多く使用しますので、経口・経皮吸収型エストロゲン製剤のホルモン調整周期の成績を比較したランダム化試験をご紹介させていただきます。
ポイント
ホルモン調整周期での凍結融解胚移植において、経口エストロゲン製剤と経皮吸収型エストロゲン製剤は、子宮内膜厚および臨床成績(着床率、臨床妊娠率、継続妊娠率)において同等の効果を示しました。患者背景や中性脂肪値、BMI、費用などを考慮した薬剤選択が重要そうです。
引用文献
Semra Kahraman, et al. J Assist Reprod Genet. 2019. DOI: 10.1007/s10815-018-1380-5
論文内容
GnRHaで下垂体抑制を行わずに凍結融解胚盤胞移植を受けた患者を対象に、経皮吸収型エストロゲンパッチと経口エストロゲン製剤の臨床的転帰(プロゲステロン投与当日の子宮内膜厚、着床率、臨床妊娠率、継続妊娠率)を単一施設での前向き無作為化臨床試験にて比較しています。
2017年5月から10月までに月経不順・無排卵周期の女性317名の患者に経口エストロゲン製剤(156名:エストラジオール錠 合計6mg)または経皮吸収型エストロゲン製剤(146名:エストラジオール経皮パッチ3.9mg)を投与しました。月経2日目からエストロゲン製剤は投与開始し月経10-15日目までフォローし、内膜厚7.0mm以上になってから、1日2回のプロゲステロンジェルを投与し投与後5日に胚移植を実施しました。
結果
経口および経皮吸収型エストロゲン投与の子宮内膜厚および臨床的転帰は、等しく良好であり、有意な差は認められませんでした。
以前、Tehraninejadら(Int J Reprod BioMed. 2018)は、凍結融解胚移植周期で経口と経皮エストロゲン製剤でのランダム化試験を行い、臨床妊娠率に有意な差はありませんでしたが流産率は経皮エストロゲン群の方が有意に低いと報告していました。しかし、今回の結果では差が見られませんでした。
私見
ホルモン調整周期凍結融解胚移植で使用されるエストロゲン製剤は以下の薬剤が多いのではないでしょうか。
①経皮吸収型 エストラジオール(E2)パッチ製剤
エストラーナ®は E2が0.72mg 含まれ、血中 E2濃度は約50~60pg/mL程度です。
②経口 エストラジオール(E2)製剤
ジュリナ®は1錠にE2が0.5mg含まれ、血中 E2濃度は約24pg/mL程度です。
③経口 結合型エストロゲン(CEE)製剤
プレマリン®は妊馬尿より抽出・精製して得られ、エストロン、エクイリン、エクイレニンなど約10種類のエストロゲン様物質の合剤であり、1錠0.625mg の経口製剤です。純粋な E2製剤ではなく、内服中の E2濃度は通常用いられている測定系では他のエストロゲン様物質とクロスするために高めの値になります。
それぞれの薬の違いをまとめます。
経口vs経皮の違い(first pass effect)
経口投与された薬剤(ジュリナ®とプレマリン®)は、腸管から吸収され、肝-門脈系(hepatic-portal system)に入り、肝臓を通過してから全身循環に入ります。一部は肝臓内で代謝され、全身に分布される薬剤量は減少します。このような肝臓通過による効果はfirst pass effectと呼ばれています。
経皮投与(エストラーナ®)では肝-門脈系を介さないので、first pass effectが発生しません。よって、経皮の方が脂質代謝の変化や凝固因子産生を引き起こしづらいのです。
経口製剤同士の違い
ジュリナ®とプレマリン®は同じ経口エストロゲン製剤ですが活性は異なります。共に肝臓で代謝を受け、脂質代謝や血管炎症マーカーに影響しますが、ジュリナ®の方がプレマリン®に比べて影響が少なくなります。中性脂肪が高い症例やbody mass index(BMI)が25を越えているような場合で経口製剤を用いる場合には、ジュリナ®が望ましいと考えます。
患者様の状況にあわせて薬剤をきりかえていくことは、とても大事なことだと思います。私たちも、よりよいホルモン調整を目指したいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。