はじめに
凍結融解胚移植のホルモン調整周期におけるエストロゲン製剤の役割は、内膜を厚くし、その後8週前後まで続けること以外、あまり詳しく触れられることはありません。日本では発売になっておりませんが、エストロゲン製剤には経腟製剤もあります。こちらをご紹介させていただきます。紹介理由は、この論文から得られる情報が多いと判断し、当院の治療にも活かせそうだと考えたためです。
ポイント
経皮エストロゲン製剤は経腟製剤と比較して、内膜をより厚くし、治療期間が短く、患者満足度が高くなります。血清エストラジオール値が高いほど内膜が厚くなるわけではなく、また高エストロゲン値は血栓リスク、低出生体重児、胎盤異常、妊娠高血圧症候群との関連が示唆されています。
引用文献
Romain Corroenneら. Sci Rep. 2020. DOI: 10.1038/s41598-020-57730-3.
論文内容
凍結融解胚移植周期における子宮内膜厚を、経皮的エストロゲン製剤と経腟エストロゲン製剤の間で比較しました。患者の満足度と妊娠の転帰も比較検討しています。2017年1月から12月までの1年間、フランスの単一施設での前向き研究です。
119サイクルに経皮エストロゲン製剤(経皮投与群:100ugのパッチを1日1枚)、199サイクルに経腟エストロゲン製剤(経腟投与群:2mgのタブレットを1日2回)が投与されました。
結果
10±1日目での子宮内膜厚は、経腟投与群と比較して経皮投与群で有意に厚くなっていました(9.9 vs. 9.3mm、p=0.03)。経皮投与群では、平均エストロゲン投与期間が短くなりました(13.6 vs. 15.5日、p<0.001)。
胚移植ができない周期は両群間で同じとなりました(12.6%vs. 8.5%、p=0.24)。内訳は自然排卵:7.6%vs. 2%、不十分な内膜厚:0.8%vs. 1.5%などでした。
血清エストラジオール値は経皮投与群で有意に低く(268 vs. 1332 pg/ml、p<0.001)、血清LH値は経皮投与群で有意に高くなりました(12.1±16.5 vs. 5±7.5 mIU/ml、p<0.001)。
患者満足度は経皮投与群の方が高く(p=0.04)、両方の治療を受けた女性の85.7%(36/42名)が経腟投与よりも経皮投与を好む傾向にありました。妊娠率は両群間で同等でした(18%vs. 19%、p=0.1)。
凍結融解胚移植周期における経皮的エストロゲン製剤は経腟エストロゲン製剤に比べて、より子宮内膜厚を厚くし、短い治療期間、より高いコンプライアンスと関連していることがわかりました。
*経皮投与群vs. 経腟投与群で数字は記載しています。
私見
エストロゲン製剤により血清エストラジオール値が高ければ高いほど内膜が厚くなるわけではないということです。ただし、血清エストラジオール値が高いほど視床下部-下垂体に対する抑制効果が強く、自然排卵は抑制できることが考えられます。
エストロゲンの値が高いほど良さそうに思われますが、決してそういうわけではないことを伺うことができます。実は高いエストラジオール値は多くの問題と関連づけられています。血栓のリスク、低出生体重児、胎盤異常、妊娠高血圧症候群との関連も示唆されています。ただし、ほとんどの論文は新鮮胚移植での卵巣刺激による高エストロゲン値での報告なので、凍結融解胚移植での至適なエストロゲン値は明確にはなっていません。
私は基本的に、患者様の副作用やコンプライアンスの有無でエストロゲン製剤を選択しておりますが、母児ともに負担が少ない選択を検討していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。