はじめに
体外受精(IVF)は世界的に広く普及しており、技術的改良が重ねられてきました。一方で、大規模なメタアナリシスでは生殖補助医療(ART)が早産、SGA(在胎週数に比して小さい児)、妊娠高血圧症候群などの有害な妊娠・周産期アウトカムと関連することが繰り返し示されています。しかし、これらの有害転帰がIVF技術そのものに起因するのか、不妊女性の背景因子によるものかは未だ明確ではありません。この問いに答えるため、今回は同一女性においてIVF妊娠と自然妊娠の両方で出産した症例を対象に、それぞれを1:1でマッチングし産科・周産期予後を比較したマッチドケースコントロール研究をご紹介いたします。
ポイント
同一女性を対照とした解析では、IVF妊娠は自然妊娠と比較して早産・SGA・妊娠高血圧症候群のリスク増加と独立した関連を示さず、不妊患者の背景因子の影響が大きいことが示唆されました。
引用文献
Ganer Herman H, et al. Fertil Steril. 2021 Apr;115(4):940-946. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.060.
論文内容
同一女性のIVF妊娠と自然妊娠における産科的・周産期的転帰を比較することを目的とした、マッチドケースコントロール研究です。2008年11月から2020年1月までの期間に、イスラエルのEdith Wolfson Medical CenterにてIVF妊娠と自然妊娠の両方で生児単胎分娩(妊娠24週以上)を経験した女性を対象とし、卵子提供によるIVF妊娠は除外しました。各IVF妊娠を同一女性の自然妊娠と1:1の割合でマッチングし、それぞれの女性が自身のコントロールとなる設計としました。
主要アウトカムは早産(PTB:妊娠37週未満の分娩)、副次アウトカムはSGA新生児(在胎週数相当の体重10パーセンタイル未満)および妊娠誘発性高血圧(PIH:妊娠高血圧または子癇前症)としました。統計解析にはSPSSソフトウェア v25を使用し、連続変数には対応のあるt検定、カテゴリ変数にはWilcoxon符号付き順位検定を用いました。さらに、交絡因子を調整した多変量ロジスティック回帰分析を実施しました。
結果
研究期間中の51,061件の分娩のうち、49,244件が生児単胎分娩でした。最終的に532人の女性(うち12人は4回の分娩があり全例を組み入れ)のIVF妊娠544件と、同一女性の自然妊娠544件がマッチングされました。292人(53.7%)では自然妊娠がIVF妊娠に先行しており、両分娩の間隔中央値は50ヵ月(範囲:10~291ヵ月)でした。
不妊原因が判明した395例のうち、男性因子157例、原因不明121例、卵管因子57例、無排卵33例、卵巣予備能低下16例、着床前遺伝学的検査7例、子宮内膜症4例、子宮因子4例でした。不妊期間の中央値は2年(範囲:1~14年)でした。移植方法が判明した374例のうち、新鮮胚移植が271例(72.5%)、凍結融解胚移植(FET)が103例(27.5%)であり、FETのうち60例はホルモン調整周期で実施されました。
IVF群では分娩時の母体年齢が有意に高く(32.7±5.2歳 vs. 29.7±5.4歳、P<.001)、妊娠回数も多く(P<.001)、初産婦の割合が低い(29.8% vs. 40.3%、P=.003)という特徴がありました。一方、BMI、喫煙、妊娠前糖尿病、慢性高血圧、ミュラー管異常については両群で有意差を認めませんでした。
分娩週数および早産率はIVF群9.2%、自然妊娠群7.0%(P=.14)と両群で同等でした。子癇前症はIVF群1.3%、コントロール群1.1%(P=.78)、妊娠高血圧の発症率も同等でした。前置胎盤、常位胎盤早期剥離、吸引・鉗子分娩、帝王切開分娩、輸血の必要性においても有意差を認めませんでした。出生体重はIVF群でわずかに低値でしたが(3,164±530 g vs. 3,212±490 g、P=.042)、SGA新生児の発症率には有意差がありませんでした(7.4% vs. 7.9%、P=.71)。
多変量ロジスティック回帰分析では、PTB(OR 1.12、95%CI 0.54–2.32)、SGA(OR 0.88、95%CI 0.46–1.69)、妊娠高血圧障害(OR 1.55、95%CI 0.51–4.74)のいずれにおいても、IVFは独立したリスク因子ではありませんでした。
サブ解析として、妊娠の順序別(自然妊娠先行292例 vs. IVF妊娠先行252例)および移植方法別(自然妊娠544例 vs. 新鮮胚移植271例 vs. 凍結融解胚移植103例)の比較を行いましたが、PTB、SGA、妊娠高血圧障害の発症率に有意差は認められませんでした(PTB:7.0%、9.6%、5.8%、P=.32;SGA:7.9%、9.6%、6.8%、P=.60;妊娠高血圧障害:1.1%、1.5%、1.0%、P=.87)。
結論
マッチドケースコントロール研究デザインを用いた本研究では、IVF妊娠と自然妊娠の間で主要な産科転帰に有意差は認められませんでした。不妊患者集団において有害な産科アウトカムは、IVF手技そのものよりも患者背景因子に起因している可能性が示唆されます。
私見
本研究はIVF妊娠の産科予後に関する重要な知見を提供しており、同一女性を自身のコントロールとして用いることで、背景因子の交絡を最大限に排除した点が独自性として評価できます。
ARTと周産期予後に関する先行研究は以下のように整理されます。
IVFによる有害アウトカムを示す報告(懸念派)
- Henningsen AK, et al. Fertil Steril. 2011;95:959-963.
デンマーク全国出生登録データを用いた同一母親の兄弟コホート研究。IVF妊娠では出生体重と在胎週数の低下、早産・低出生体重の割合増加。 - Romundstad LB, et al. Lancet. 2008;372:737-743.
ノルウェー全国出生登録データを用いた同一母親コホート研究。IVF妊娠での出生体重低下・早産リスク増加を報告。 - Pinborg A, et al. Hum Reprod Update. 2013;19:87-104.
不妊女性の自然妊娠とIVF妊娠を比較した解析でIVFにより早産リスクがさらに段階的に上昇すると報告。自然妊娠の不妊女性においてもOR 1.35、IVF妊娠ではOR 1.55の早産リスク増加。
IVFによる有害アウトカムを認めない報告(否定派)
- Tsutsumi R, et al. Reprod Med Biol. 2012;11:149-153.
不妊患者群内での比較においてIVFによる早産・SGA・低出生体重の過剰リスクは認めず。 - Raatikainen K, et al. Hum Reprod. 2012;27:1162-1169.
不妊女性における自然妊娠と治療後妊娠を比較し、IVF治療後に追加的な有害転帰は観察されず。
臨床的観点からは、本研究の結果は患者への説明において重要な根拠となります。「IVF治療を行うことで自然妊娠と比べて周産期合併症リスクが著しく増大するわけではない」という情報は、IVF治療を検討中あるいは治療中の患者に対して適切な情報提供を行ううえで有用です。一方、不妊症そのものが有害転帰のリスク因子である可能性も示唆されており、治療法の選択だけでなく患者背景を含めた総合的なリスク評価の重要性が改めて認識いたしました。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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