プレコンセプションケア

2020.12.23

父親のプレコンセプション期の健康状態と妊娠喪失の関連(Hum Reprod. 2021)

はじめに

父親はゲノムの半分を子に提供しますが、妊娠前の父親の健康状態が胎児発育や妊娠予後に与える影響は、母親側の影響と比較して長らく十分に検討されてきませんでした。プレコンセプションケアはこれまで主に母親を対象としており、父親の評価は精液検査や生活習慣の確認にとどまることが多い状況でした。近年、父親の年齢や精子DNAの状態が妊娠予後に影響しうることが報告され始め、父親側の健康管理への関心が高まっています。今回、米国の保険金請求データベースを用いて、父親のプレコンセプション期の健康状態と妊娠喪失(異所性妊娠・流産・死産)との関連を大規模に検討したレトロスペクティブコホート研究をご紹介いたします。 

ポイント

父親のメタボリックシンドローム診断数が増えるほど妊娠喪失リスクは上昇し、この関連は母体年齢・母体健康状態とは独立したものでした。

引用文献

Kasman AM, et al. Hum Reprod. 2021;36(3):785-793. doi:10.1093/humrep/deaa332 

論文内容

本研究は、父親のプレコンセプション期の健康状態と妊娠喪失(異所性妊娠・自然流産・死産)との関連を検討することを目的とした、米国の保険金請求データベース(IBM MarketScan Research Database)を用いたレトロスペクティブコホート研究です。2007年から2016年のデータを対象とし、958,804件の妊娠を解析しました。対象は民間雇用者保険に加入し、同一保険プランに紐付けられた男女カップルとし、女性年齢は20〜45歳に限定しました。父親のプレコンセプション期の健康状態の指標として、メタボリックシンドローム(MetS)の構成要素数(高血圧・脂質異常症・肥満・糖尿病)、チャールソン合併症指数(CCI)、個別慢性疾患診断数を用い、妊娠喪失との関連を検討しました。解析にはGeneralized Estimating Equationsを用い、妊娠アウトカム年・地域・母体高血圧・母体糖尿病・母体肥満・母体脂質異常症・母体年齢・母体喫煙・父親年齢・父親喫煙を調整因子として使用しました。 

結果 

解析対象958,804件の妊娠において、父親の平均年齢は35.3歳(SD 5.3)、母親の平均年齢は33.1歳(SD 4.4)でした。全妊娠の22%が妊娠喪失となりました。MetS構成要素を持たない男性と比較して、妊娠喪失のRRはMetS構成要素1つの場合RR 1.10(95% CI 1.09–1.12)、2つの場合RR 1.15(95% CI 1.13–1.17)、3つ以上の場合RR 1.19(95% CI 1.14–1.24)と、MetS構成要素数の増加に伴い段階的に妊娠喪失リスクが上昇しました(PTrend <0.0001)。妊娠喪失の内訳別にみると、異所性妊娠(3つ以上:RR 1.54、95% CI 1.41–1.66)、自然流産(3つ以上:RR 1.24、95% CI 1.19–1.29)、死産(3つ以上:RR 1.16、95% CI 0.992–1.32)いずれにおいても同様の傾向が認められました。慢性疾患数が4つ以上の場合も妊娠喪失リスクが最も高く(RR 1.18、95% CI 1.11–1.26)、CCIが増加した場合も同様の結果でした。
母体MetS構成要素数および母体年齢(<30歳、30〜35歳、>35歳)で層別化した解析においても、父親のMetS構成要素数が増加するにつれて妊娠喪失リスクが「用量依存的」に上昇するパターンが、すべての母体年齢層で一貫して認められました(例:母体年齢<30歳でMetS 3つ以上:RR 1.20、95% CI 1.07–1.33)。また、妊娠喪失の発生時期(妊娠週数)と父親の健康状態の関連を検討したところ、統計学的に有意ではあるものの弱い関連が認められ、父親のMetS構成要素が多いほど第1・第2三半期における妊娠喪失リスクが増加しました(3つ以上の場合、第1三半期RR 1.40、95% CI 1.34–1.46;第2三半期RR 1.17、95% CI 1.11–1.23)。ファミリー内の複数妊娠の影響を排除するための感度分析(最初の妊娠のみを対象とした解析、ブートストラップ法)においても、同様の結果が確認されました。 

私見

本研究は、父親のプレコンセプション期の健康状態と妊娠喪失の関連を示した最初の大規模研究として注目されます。父親の健康状態が妊娠予後に影響する機序として、精子のエピジェネティック変化が最有力候補とされています。 

  • Ibrahim Y, et al. Semin Reprod Med. 2018;36:233-239. 
    精子クロマチン構造内の変化が胚発生異常を引き起こしうる可能性を示しており、肥満・食事・喫煙が精子エピジェネティックプロファイルに影響を与えることが複数の研究で報告されています。 
  • Schagdarsurengin U, et al. Nat Rev Urol. 2016;13:584-595. 
    Craig JR, et al. Fertil Steril. 2017;107:848-859.  
    父親の肥満・食事がエピゲノム変化を介して次世代に影響を与える可能性を報告しており、本研究の結果と生物学的整合性があります。 
  • Khadem N, et al. Andrologia. 2014;46:126-130.  
    Yuan M, et al. Basic Trends. 2019;13:152-159.  
    精子DNA断片化の異常が反復流産リスクを増加させることを示しており、父親の健康状態悪化→精子DNA損傷→妊娠喪失という経路が想定されます。 
  • Khandwala YS, et al. BMJ. 2018;363:1-8.  
    45歳以上の高齢父親が早産・低出生体重のリスク増加と関連することを報告していますが、本研究では父親の健康状態の悪化は年齢効果を超えて全年齢層で有害な影響を示しており、年齢よりも健康状態そのものが重要である可能性が示唆されています。 
  • Bergh C, et al. Fertil Steril. 2019;111:1036-1046.  
    高齢父親が食道閉鎖症・1型糖尿病・脳性麻痺・自閉症スペクトラム障害・トリソミー21などの先天異常リスクと関連しうることを概説しており、父親の生物学的寄与に関する議論が近年活発化しています。 
  • Bakos HW, et al. Fertil Steril. 2011;95:1700-1704.  
    Campbell JM, et al. Obes Res Clin Pract. 2019;13:511-521. 
    父親BMI増加がART成績を低下させることを示しており、本研究の知見と方向性が一致しています。 

本研究の重要な臨床的意義は、これまで流産・不育症の評価において中心的であった母体側因子の評価に加え、父親のプレコンセプション期の健康管理、特にメタボリックシンドローム構成要素の改善(体重管理・血圧管理・血糖管理・脂質管理)がカップルの妊娠予後改善に寄与しうる点を大規模データで示した点です。 
生活習慣の改善は、夫婦で行なってもらうのが一番ですね。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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