はじめに
FSHとエストラジオールの両方が顆粒膜細胞の増殖と機能に対して刺激因子となります。FSH受容体は、卵丘-卵子複合体を含む卵胞全体に分布しています。卵丘-卵子複合体内でのFSH受容体が活性化することは卵子の成熟に極めて重要です。基底膜側では、卵胞は血液循環がなく卵胞内FSH量は拡散に依存し血液血清FSH濃度と関連します。顆粒膜細胞は卵胞液中に拡散したFSHを結合して増殖しE2を合成します。卵胞液中の高いE2レベルが血液循環中に拡散します。
これらのことからFSHを高い状態を作ると良いのでは?と思いがちですよね。
以前ブログでも紹介したクロミッド刺激にHMG製剤を加えると体外受精成績は変わる?(Reprod Med Biol. 2019)ではクロミッドメイン刺激にHMGをちょっと追加すると結果がよくなったという報告でしたが、今回の論文はHMGアンタゴニスト法にクロミッド少し追加すると結果がよくなるの?という報告です。
ポイント
HMGアンタゴニスト法にクロミッド追加しても回収卵子数は変わりませんが、低用量HMGとクロミッド併用群で胚盤胞数が多くなりました。エストラジオール値に差はないものの、クロミッド添加で子宮内膜が薄くなる傾向を認めました。
引用文献
R. Moffat, et al. Hum Reprod. 2020. DOI:10.1093/humrep/deaa336
論文内容
単施設無作為化二重盲検臨床試験です。2013年8月から2017年11月まで実施されました。ボローニャ基準を用いて、2288名中220名(9.6%)が卵巣刺激反応不良と判定され114名がHMGアンタゴニストプロトコールによる卵巣刺激を実施しました。4つの治療群に無作為に割り付けられ、刺激方法は事前にピル内服(16-22日)後、GnRH-アンタゴニストプロトコルに従って実施しました。
A)(n=28)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG450単位
B)(n=29)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG150単位
C)(n=30)プラセボ 5日間併用 HMG450単位
D)(n=27)プラセボ 5日間併用 HMG150単位
uHCG10000単位を用いて37時間後に採卵実施しました。
血清FSH、LH、E2、プロゲステロン濃度は、卵巣刺激1日目と5日目、排卵誘発日に測定しました。受精胚は胚盤胞まで培養し、同サイクルで移植しました。主要評価項目は、回収卵子数です。副次評価項目として卵巣刺激に対する反応、胚の発育、産科的転帰としました。
結果
参加者の年齢の中央値は38.5歳であり、採卵を受けた患者は109名でした。
下記のボローニャ基準の二つを必ず満たしていました。
(i)母体年齢が高い(40歳)またはその他の危険因子
遺伝的素因、重度の骨盤感染症既往、内膜症性嚢胞、卵巣手術の既往、化学療法の既往、月経周期が短い(26日以下)など
(ii)以前の卵巣刺激反応不良(従来の刺激プロトコールで3個以下の回収卵子数)
(iii)卵巣予備能の低値(AFC 7個以下またはAMH 1.1 ng/ml(7.85 pmol/l)以下)
回収卵子数は各群間で類似していました(±SD;95%信頼区間);A:2.85(±0.48;2.04-3.98)、B:4.32(±0.59;3.31-5.64)、C:3.33(±0.52;2.45-4.54)、D:3.22(±0.51;2.36-4.41)。
しかし、B)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG150単位は、A)クロミッド100mg/日 5日間併用 HMG450単位による卵巣刺激に比べて胚盤胞の数が多いという結果になりました(±SD;95%信頼区間);A:0.83(±0.15;0.58-1.2)、B:1.77(±0.21;1.42-2.22);P=0.006。
平均血清FSHレベルは、HMG150IU群で低くなりました。クロミッド添加群は平均血清FSHレベルに影響を与えませんでした。
E2レベルには群間で差はありませんでした。
子宮内膜厚はクロミッド添加群で低くなりました。
全体の出生率は12.3%、累積出生率は14.7%でした。
私見
回収された卵子の数は、GNの開始用量(150対450 IU)にかかわらず、クロミッドの添加の有無(3日目から7日目までの100 mg対プラセボ)によらず、ほぼ同程度でした。
今回の検討と似た試験ではTriantafyllidouらは300 IUのHMGアンタゴニストプロトコールにクロミッドを追加すると、卵巣刺激中のエストラジオールレベルが上昇し、卵子回収数と移植可能胚数が改善したというポジティブな試験もあります。
またHMG量を増やすと回収卵がふえるが、出生率や継続妊娠率がふえないという結果もあります。結果は様々なので、新しい知見に期待しつつ費用対効果とOHSS発症リスク、そして現在までの報告結果をふまえて患者様と共に卵巣刺激法を検討していくのがよいのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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