体外受精

2021.03.01

ヨーロッパ生殖医学会の推奨する調節卵巣刺激?(ESHRE guideline 2025年版アップデート)

はじめに

日本では生殖補助医療にといて様々な卵巣刺激が実施されています。クリニックはそれぞれの特徴をもって、患者様の状態に合わせて最良の妊娠・出生率、そして合併症の予防に努めます。そんな中で最近思うのは、ネット社会のせいか標準的な治療よりも一人の発信者の意見が正しいかのように捉えられ、それが不妊治療の自費診療と重なってクリニック批判を招いているのでは?と思っています。今後、日本も不妊治療を保険診療化していくうえでは治療の標準化は必須です。
ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)のガイドライン「体外受精/顕微授精のための卵巣刺激」が2025年11月にアップデートされました。主要な推奨事項を以下にまとめます。

ポイント

2025年アップデート版の主な特徴

①新しい分類用語の採用
「Low response(≤3個の卵胞または≤3個の採卵)」「High response(≥18個の卵胞≥11mmまたは≥18個の採卵)」
②OHSS予防方法の強化
③全胚凍結の位置づけの明確化

この数年、卵巣刺激のスタンダードは大きく変わっています。これらの標準的な治療をベースに患者様に、どのような治療を選択していくかご提示していくことが大事だと考えております。

引用文献

ESHRE guideline: ovarian stimulation for IVF/ICSI (2025 update) Hum Reprod Open. 2025 DOI: 10.1093/hropen/hoaa076.

まとめ

卵巣刺激への予測される反応別の刺激方法

卵巣予備能が十分あり、OHSSリスクが高い患者様(High responders)

基本方針
・GnRHアンタゴニスト法は、High responseが予測される女性に推奨されている(Strong) 

ゴナドトロピン用量 
・High responseが予測される女性には、OHSS発症を減少させるため減量投与(100-<150 IU)がおそらく推奨される(Conditional ) 
・GnRHアゴニスト法を使用する場合は、OHSSのリスクを減らすためにゴナドトロピン用量を減らすことが推奨されている(Conditional ) 

併用療法について 
・ゴナドトロピンへのクロミフェンのadd-onは、High responseが予測される女性には推奨されない(Conditional) 
・ゴナドトロピンへのレトロゾールのadd-onは、High responseが予測される女性にはおそらく推奨されない(Conditional ) 

プロトコルの選択肢
・遅延開始プロトコル(Delayed-start)は、おそらく推奨されない(Conditional ) 
・修正自然周期を使用することを正当化するエビデンスはない 

卵巣予備能が正常な患者様(Normal responders)

基本方針
・GnRHアンタゴニスト法は、安全性の向上に関して、normal responseが予測される女性に推奨されている(Strong ) 

ゴナドトロピン用量
・従来のゴナドトロピン用量(150-225 IU)よりも減量することも増量することも推奨されない(Conditional ) 
・遅延開始プロトコルは、おそらく推奨されない(Conditional) 

併用療法について
・ゴナドトロピンへのクロミフェンのadd-onは、High responseが予測される女性には推奨されない(Conditional) 
・ゴナドトロピンへのレトロゾールのadd-onは、High responseが予測される女性にはおそらく推奨されない(Conditional ) 

卵巣予備能が低下しており卵巣刺激への反応が不良と考えられる患者様(Low responders)

基本方針
・遅延開始プロトコルは、おそらく推奨されない(Conditional )
・修正自然周期は、日常的には推奨されないが、卵巣予備能が非常に低い場合には考慮してもよい(Conditional ) 

ゴナドトロピン用量
・300 IUを超えるゴナドトロピン用量は推奨されない(Strong ) 

併用療法について
・クロミフェン単独またはクロミフェン+ゴナドトロピンは、ゴナドトロピン単独とおそらく同等に推奨される(Conditional)
・ゴナドトロピンへのレトロゾールのadd-onは、おそらく推奨されない(Conditional ) 

下垂体抑制プロトコルの選択

GnRHアゴニストvsアンタゴニスト
・一般的なIVF/ICSI集団における有効性と安全性を考慮すると、GnRHアゴニスト法よりGnRHアンタゴニスト法の方が推奨される(Strong) 
・GnRHアゴニストを使用する場合は、ショート法やウルトラショート法より、ロング法が推奨される(Strong ⊕⊕) 

アンタゴニストの投与法 
・固定法(Fixed)が柔軟法(Flexible)よりもおそらく推奨される(Conditional) 

プロゲスチンプロトコル(PPOS)
・全胚凍結を計画している場合、プロゲスチンはGnRHアナログとおそらく同等に推奨される(Conditional) 

ゴナドトロピンの種類

基本的な選択肢 
・r-hFSHとhMGは同等に推奨される(Strong) 
・r-hFSHとp-FSH/hp-FSHは、GnRHアゴニストプロトコルにおいて同等に推奨される(Strong ) 

LH補充
・r-hFSH + r-hLH併用は、一般集団、低反応患者、高年齢患者(≥35歳)において、r-hFSH単独とおそらく同等に推奨される(Conditional) 

Follitropin delta
・Follitropin deltaはfollitropin alpha/betaと同等に推奨される(Strong ) 

OHSS予防戦略

事前予防策
・予測されるhigh responderには、GnRHアンタゴニストプロトコルが推奨される(Strong )
・全胚凍結を計画する場合、プロゲスチンはGnRHアナログとおそらく同等に推奨される(Conditional ) 

トリガー選択
・高リスク患者+全胚凍結では、GnRHアゴニストトリガーが推奨される(Strong )
・High responderに対するdoubleトリガー(GnRHアゴニスト+hCG)は、おそらく推奨されない(Conditional) 

補助治療
・ドパミンアゴニストは、早期OHSS発症リスクを減少させるために推奨される(Strong)
・全胚凍結戦略は、遅発性OHSSを最小化するために推奨される(Strong) 

私見

ESHRE guideline: ovarian stimulation for IVF/ICSI (2019) と大きく変わっていませんが、Follitropin delta、PPOSの記載が加わったことが大きな変化だと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# OHSS

# 卵巣刺激

# 卵巣予備能、AMH

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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