治療予後・その他

2021.04.19

ピルを使用しているとAMHは低下しますか(Fertil Steril. 2021)

はじめに

AMHに影響を及ぼす可能性のある要因の一つに、経口避妊薬(OC/ピル)の使用があります。経口避妊薬の使用によってAMH値が恒常的に影響を受けるかどうかはわかっていません。私もピルを内服中はAMHが少し低下しているように感じていますが、実際はどうなのでしょうか。論文をご紹介いたします。 

ポイント

ホルモン避妊薬の現在使用者はAMH値が有意に低下するが、その効果は可逆的です。経口避妊薬、腟リング、酢酸メドロキシプロゲステロンデポ剤の使用者において平均AMH値の低下が認めましたが、過去の使用経験や累積使用期間とAMH値との間には有意な関連は認められませんでした。

引用文献

Lia A Bernardi, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.007 

論文内容

ホルモン避妊薬使用とAMH値との関連性に関する既存の文献には一貫性がないことから、ホルモン避妊薬の期間、中断からの間隔、ホルモン避妊薬種類がAMH値と関連するかどうかを評価することを目的としました。 
アフリカ系アメリカ名女性(採血時(2010~2012年)に23~35歳だったアフリカ系アメリカ名女性1,643名)を対象とした5年間の縦断的研究であり、Study of the Environment, Lifestyle and Fibroids StudyのベースラインデータをLooking indicatorしました。本解析ではホルモン避妊薬非使用者232名、経口避妊薬180名、エトノゲストレル/エチニルエストラジオール腟リング28名、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(プロベラ®の同薬剤)のデポ剤103名、LNG-IUD 116名で検討しています。 
評価項目は血清AMH値とし、線形回帰モデルを用いて、潜在的交絡因子を調整した上で、ホルモン避妊薬の使用状況に応じた平均AMH値の差の割合と95%信頼区間(CI)を推定しました。

結果

多変量解析では、ホルモン避妊薬の使用者は非使用者に比べて平均AMH値が25.2%低くなりました(95%CI:35.3%、13.6%)。ホルモン避妊薬の過去の使用経験の有無では、AMH値にほとんど差はありませんでした(4.4%、95%CI:16.3%、9.0%)。AMH値は、以前の使用における累積使用期間(1年未満、1-3年、4年以上)や、最終使用からの経過時間(1年未満と以上で分類)とは、有意な関連はありませんでした。経口避妊薬併用群(-24.0%、95%CI:36.6%、8.9%)、腟リング群(64.8%、95%CI:75.4%、49.6%)、酢酸メドロキシプロゲステロンデポ群(26.7%、95%CI:41.0%、8.9%)の現使用者は、非使用者に比べて平均AMH値が低くなりました。 

私見

今回のデータは、ほとんどの種類のホルモン避妊薬を現在使用している名のAMH値は有意に低いが、ホルモン避妊薬のAMH値に対する抑制効果は可逆的であることがわかりました。 
ホルモン避妊薬によってAMH値が低下するとした報告、変化しないとした報告ともにありますが、今回の論文は低下することを示した論文です。今までの論文以上にターゲット層とホルモン避妊薬の使用の仕方が詳細に解析されているので参考にしたいと考えています。 

低下する派の報告 

  • Dolleman M, et al. J Clin Endocrinol Metab 2013. 
  • Landersoe SK, et al. Eur J Contracept Reprod Health Care 2020. 
  • Bentzen JG, et al. Reprod Biomed Online 2012. 

変化しない派の報告 

  • Deb S, et al. Ultrasound Obstet Gynecol 2012. 
  • Li HW, et al. Contraception 2011. 
  • Somunkiran A, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2007. 
  • Steiner AZ, et al. Contraception 2010. 
  • Streuli I, et al. Fertil Steril 2008. 

また、日本では未発売ですが、酢酸メドロキシプロゲステロンデポ使用がAMH値と逆相関することを示した初めての研究となっています。エストロゲン・プロゲステロンのホルモン避妊薬がAMH値に影響を与えるのは、視床下部-下垂体-卵巣軸の制御が低下し、FSH、LH産生が減少し、前胞状卵胞発達が変化するためと考えられていますが、酢酸メドロキシプロゲステロンデポ使用は顆粒膜細胞のAMH産生に悪影響を及ぼすことで長期間AMH値を下げるのではないかと別の作用機序の可能性も考えられます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 卵巣予備能、AMH

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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