はじめに
子宮筋腫は女性の30-40%が罹患しています。生殖治療に影響を与えそうな場合のみ介入が好ましいとされています。今回のレビューのポイントは、子宮内腔を物理的に変形させる子宮筋腫(FIGO 0-2)は子宮鏡下手術が推奨され、筋層内・漿膜下筋腫には手術を推奨しないことが一般的であるということです。
ポイント
子宮筋腫による反復流産への影響は部位により異なります。子宮内腔を変形させる粘膜下筋腫(FIGO 0-2)に対しては子宮鏡下手術が推奨されますが、筋層内・漿膜下筋腫への手術介入は推奨されません。診断には超音波検査が第一選択であり、必要に応じて子宮鏡検査やソノヒステログラフィーを追加します。
引用文献
Marie Carbonnel, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.003.

論文内容
子宮筋腫と反復流産の関連
反復流産における子宮筋腫の有病率は、研究によって0.5-1.3%とされています。子宮筋腫は、着床不全による不妊症とも関連しています。
子宮筋腫が妊娠成立に悪影響を及ぼすメカニズムがいくつか報告されています。子宮収縮力の変化、子宮内膜のサイトカイン発現の乱れ、血管の異常、慢性的な子宮内膜の炎症、子宮内膜の圧排による機械的な伸展、内膜のHOXA-10発現の低下などです。
子宮筋腫は部位によって粘膜下、筋層内、漿膜下に分類されています。今日では、国際産科婦人科連合(FIGO)によって提案された詳細な分類が多用されます。
子宮筋腫の部位別の影響
子宮内腔を物理的に変形させる子宮筋腫(FIGO 0-2)は、慢性的な子宮内膜の炎症、異常な血管形成、子宮収縮力の増大、および局所内分泌パターンの異常によって反復流産の増加、継続妊娠率の低下、流産率の上昇と最も強い関連性があります。
一部の報告によると、筋層内筋腫も不妊治療成績の低下と関係があるとされています。筋層内筋腫は着床や妊娠初期への悪影響が疑問視されていますが、大きさなどにもよります。筋層内筋腫4cm以上で反復流産を増加させるという可能性もあります。多発子宮筋腫は、流産および反復流産のリスク因子になります。漿膜下筋腫は、妊娠や流産とは関連していません。
診断方法
子宮筋腫を診断するためにはまず超音波検査です。子宮鏡検査は子宮内腔に突出した子宮筋腫(FIGO 0-2)を診断するのに適しています。ソノヒステログラフィーは粘膜下筋腫を描出することができ、内膜に接している筋層内筋腫(FIGO 3-5)かどうか確認するためには精度が高いといわれています。
MRIは、筋腫の数、大きさ、漿膜面との関係など、非常に有用な情報を提供することができますが、気軽に撮影できない場合もありますので超音波検査で十分な情報が得られない場合に追加検査として考えます。FIGO1-2の粘膜下筋腫もしくは筋層内筋腫の圧排に対して子宮鏡手術を行う場合、子宮穿孔のリスクを減らすため、手術前に筋腫と漿膜下面との距離を測定しておくことが好ましいとされています。
反復流産患者に対する子宮筋腫の管理方法
反復流産に対する子宮筋腫摘出術の効果に関するほとんどの研究は、対照群の設定がなされていません。子宮筋腫摘出術は粘膜下筋腫の場合、妊娠の可能性を高めますが、流産・反復流産を減少させるかどうかエビデンスは不十分です。
子宮腔に影響を及ぼさない壁内筋腫に対しては、手術の明確な効果は証明されていません。子宮内ヒアルロン酸ベースのバリアジェルと、術後4-6週目のセカンドルック子宮鏡検査は癒着のリスクを減少させます。
経腹アプローチ下の子宮筋腫核出術は、子宮鏡的アプローチより多くの合併症リスクが発生します。腹腔鏡下手術では、妊娠時の子宮破裂の潜在的リスクが約1%と推定されているため、一定期間の避妊期間、妊娠した後は帝王切開が必要となることが多いです。開腹手術となると骨盤内の癒着が生じやすく、二次的な不妊症の原因となる可能性があります。リスクとベネフィットの比率を考慮し、何より癒着に気をつけながら手術前に患者と手術の必要性と方法を話し合うことが好ましいとされています。
ESHREガイドラインは驚くべきことに、反復流産女性における粘膜下筋腫の子宮鏡下除去を支持する十分な証拠はないと結論づけています。コンセンサスが得られていないにもかかわらず、粘膜下筋腫の手術はほとんどの生殖医療に関わる医師によって選択されています。
現在のところ、子宮内腔を物理的に変形させる子宮筋腫(FIGO 0-2)は子宮鏡下手術が推奨され、筋層内・漿膜下筋腫には手術を推奨しないのが一般的となっています。
私見
子宮筋腫と反復流産の関係は部位と大きさが重要です。粘膜下筋腫は子宮内腔を変形させることで着床環境を障害し、慢性炎症やHOXA-10発現低下を引き起こします。当院では、FIGO 0-2の粘膜下筋腫に対しては積極的に子宮鏡下手術を推奨しています。一方、筋層内筋腫については4cm以上の場合に影響が出る可能性を考慮し、個別に判断しています。エビデンスは限定的ですが、臨床経験上、粘膜下筋腫の切除により妊娠予後が改善する症例を多く経験しており、手術のリスクとベネフィットを十分に説明したうえで治療方針を決定することが重要と考えます。
Fertil Steril. 2024にアップデートされています。こちらもご覧ください。
子宮筋腫関連不妊症:機序と管理(Fertil Steril. 2024)
https://wfc-mom.jp/blog/post_1635/
文責:川井清考(WFC group CEO)
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