はじめに
精索静脈瘤手術を受けた不妊男性を調査したメタアナリシスでは、精子濃度は平均1,200万/mL、運動性は平均11%増加することが示されています。
精索静脈瘤手術後、精液所見改善までは3ヶ月?(論文紹介:肯定派)
でも記載しましたが、術後3ヶ月で改善しない場合、どこまで精液所見改善を待つメリットがあるのか悩ましいところです。 精索静脈瘤の治療は手術、人工授精、体外受精が治療手段であり、手術によって体外受精の時期を遅らせるべきではないとされていますが、少しでも良い状態で不妊治療に臨みたいというカップルの気持ちを考えると、正しい情報提供ができることが好ましいと思っています。術後3ヶ月を過ぎても術後6ヶ月までの間に一定の患者様で精液所見の改善を見込めることを示した論文をご紹介します。
ポイント
精索静脈瘤手術後に精液所見が改善する患者のうち約2割は術後3〜6ヶ月の間に改善が認められます。改善時期を予測できる術前因子は現時点では明らかになっていません。
論文紹介
Graham Luke Machen, et al. Andrologia. 2020. DOI: 10.1111/and.13500
論文内容
2006年1月1日から2018年6月30日までに顕微鏡的精索静脈瘤手術を受けた患者に対し、精液検査所見の改善の有無および時期を検討しました。妊娠データは、精液検査所見の改善と時期によって妊孕性(タイミングもしくは人工授精)に影響があるかどうかを調査しました。
結果
計170名の男性が基準を満たし、140名の妊娠データがありました。 69.4%の患者の総前進運動精子数が有意に改善し、そのうち78.8%が術後3ヶ月以内に改善しました。全体の妊娠率は40.7%でした。総前進運動精子数が改善した男性とそうでない男性を比較すると、妊娠のオッズ比(OR)は5.89(95%CI: 2.28–15.28、p=0.0003)でしたが、精液検査の改善が早い場合と遅い場合で妊娠率を比較すると、ORは2.05(95%CI: 0.80–5.28、p=0.13)でした。妊娠率は改善までの時間には影響されませんでしたが、術後に総前進運動精子数が大きく改善した男性では妊娠率が高くなりました。 その他の結論として、精液所見の改善の有無は術前FSH、テストステロン、精巣サイズとの相関はありませんでした。また精索静脈瘤のグレード別、病変の片側/両側での回復までの時間を下記表でお示しします。
| グレード | 全体の改善率 | 3ヶ月後までの改善 | 6ヶ月後での改善 | 全体の妊娠率 |
|---|---|---|---|---|
| I-II度(124例) | 88/136 (64.7%) | 67 (76.1%) | 21 (23.9%) | 44/112 (39.3%) |
| III度(30例) | 30/34 (88.2%) | 26(86.7%) | 4 (13.3%) | 13/28(44.8%) |
| グレード | 全体の改善率 | 3ヶ月後までの改善 | 6ヶ月後での改善 | 全体の妊娠率 |
|---|---|---|---|---|
| 片側(33例) | 25/33 (75.8%) | 24(96%) | 1 (4%) | 15/29 (51.7%) |
| 両側(137例) | 93/124 (75%) | 69(74.2%) | 424(25.8%) | 42/111(37.8%) |
私見
精索静脈瘤術後に改善する患者様のうち約2割の方は術後6ヶ月までかかって回復することが示された論文です。術後3ヶ月で回復しない場合は、6ヶ月までは改善を期待しても良いのかもしれません。ただし、回復の時期を予測する因子は本論文の結果からは見つかっておりません。
精索静脈瘤修復術をして精液所見の改善が術後3ヶ月時点でない場合、男性だけでなく、ステップアップをせずに待っていた女性の落ち込みも大きく、正しい情報発信ができるきっかけになればと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。