治療予後・その他

2021.09.09

BRCA1/2遺伝子に病原性変異は不妊治療で乳がんリスクが上がる?(Fertil Steril. 2021)

はじめに

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は、BRCAの生殖細胞系列の変異に起因する乳がんおよび卵巣がんをはじめとするがんの易罹患性症候群であり、常染色体優性遺伝形式を示します。米国では35~64歳の乳がん女性症例の約5%にBRCAの変異を認めており、卵巣がんにおいては海外で卵巣がん症例の15%にBRCAの変異を認めたとする報告があります。日本人一般集団におけるBRCAの遺伝子変異頻度は不明ですが、英国および米国(non-Ashkenaziの白人)のデータから400~500人に1人と推定されています。BRCA1/2遺伝子変異は、卵巣予備能の低下などとも関連性を示唆する報告があり、不妊との関連で話題にあがる遺伝子です(Oktay K, et al. 2010.; Wang ET, et al.2014.; Ben-Aharon I, et al. 2018.)。
BRCA1/2遺伝子の病原性変異保持者の乳がんリスクを上昇させるかどうかに影響を与えるかを調査した報告をご紹介いたします。 

ポイント

BRCA1/2遺伝子の病原性変異保持者において、不妊治療の種類に関わらず、不妊治療と乳がんリスクとの間に関連は認められませんでした。 

引用文献

Tamar Perri, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.030 

論文内容

不妊治療が、ユダヤ系イスラエル人のBRCA1/2遺伝子の病原性変異保持者の乳がんリスクを上昇させるかどうかに影響を与えるかを調査した論文です。
単一施設でユダヤ系イスラエル人BRCA1/2遺伝子変異キャリア1,824人を、不妊治療を受けていないキャリア1,492人(81.8%)と、クエン酸クロミフェン(n=134人)、ゴナドトロピン(n=119人)、体外受精(n=183人)、またはそれらを組み合わせた治療(n=89人)による不妊治療を受けたキャリア332人(18.2%)に層別して解析しました。
評価項目は不妊治療およびホルモン療法と乳がんの関連性におけるハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)としました。 

結果 

BRCA1/2遺伝子の病原性変異保持者687名が乳がんと診断されました。多変量解析では、グループ全体または遺伝子ごとに分けて解析した結果、不妊治療の種類に関わらず、不妊治療と乳がんリスクとの間に関連は認められませんでした(クエン酸クロミフェン:HR 0.77、95%CI 0.49-1.19、ゴナドトロピン:HR 0.54、95%CI 0.28-1.01、体外受精:HR 0.65、95%CI 0.39-1.08、混合治療:HR 1.23、95%CI 0.49-3.06)。乳がんリスクは、BRCA1およびBRCA2遺伝子の病原性変異保持者のいずれにおいても、父方の遺伝子変異(HR 1.43、95%CI 1.17-1.75)および5年以上の経口避妊薬の使用(HR 1.62、95%CI 1.27-2.06)と関連していました。卵巣がんのリスクは、いずれかの経口避妊薬の使用によって低下しました(HR 0.61、95%CI 0.46-0.82)。
BRCA1/2遺伝子の病原性変異保持者の不妊治療は、乳がんリスクと関係していません。 

私見

BRCA1/2遺伝子変異キャリア女性での乳がんリスクが不妊治療で上昇しないことは、そのほかにも2本の論文で報告されています。

  • 117人のBRCA遺伝子変異キャリア女性が不妊治療薬で非使用者と比較して乳がんのリスクが増加しない(オッズ比1.21、95%CI 0.81-1.82)(Kotsopoulos J, et al. 2008.) 
  • 体外受精を受けていないBRCA遺伝子変異キャリア女性76人を対象としたコホート研究で乳がんリスク増加は認めませんでした(ハザード比0.79、95%CI 0.46-1.36)(Derks-Smeets IAP, et al. 2018.) 

BRCA1/2遺伝子変異キャリアを持つ女性でも、不妊治療を適切に実施することにより乳がんリスクが上昇しないことがわかります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# がんと生殖医療

# 妊孕性温存

# 卵巣刺激

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

子宮体癌初期・子宮内膜異型増殖症に対するLNG-IUS併用COSの腫瘍学的安全性と生殖結果(F S Rep 2025)

2025.11.04

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

2025.07.21

BRCA遺伝子変異と卵巣予備能(Fertil Steril. 2025)

2025.05.15

甲状腺がん治療が生殖補助医療成績に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2021)

2025.03.31

治療予後・その他の人気記事

妊娠高血圧腎症予防のアスピリン投与について(AJOG2023 Clinical Opinion)

自然妊娠と体外受精妊娠、どっちが流産多いの?

妊娠中メトホルミン使用は児神経予後と関連しない(Am J Obstet Gynecol. 2024)

帝王切開既往と出産回数が子宮破裂リスクに与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2025)

反復着床不全・反復流産におけるタクロリムス治療の周産期予後(Am J Reprod Immunol. 2019)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25