治療予後・その他

2022.06.13

社会的卵子凍結のSWOT分析(Reprod Biomed Online. 2022)

はじめに

卵子ガラス化凍結は、年齢によって低下する生殖能力の低下に対する予防措置として、世界中で実施されるようになっています。国内では、がん治療などによって生殖能力が低下する場合に医学的卵子凍結を行っていましたが、最近では上記の理由による社会的卵子凍結のニーズも広がってきました。 
「社会的」という言葉は、「必要性」よりも「希望や願望」と関連しているとされているため、実際に行っている女性の気持ちに立つと「社会的卵子凍結」という言葉から「計画的卵子凍結」などの他の言葉に切り替えることも提唱されてきています。 

ポイント

社会的卵子凍結は36歳より若い時期に実施すると、凍結卵子20〜25個で80〜85%の出生率が期待できます。しかし利用率は約10%と低く、費用対効果は37歳前後が最も高いとされています。

引用文献

Elisa Gil-Arribas, et al. Reprod Biomed Online. 2022. DOI: 10.1016/j.rbmo.2022.02.001 

論文内容

社会的卵子凍結は、女性の加齢に伴う不妊のリスクを軽減する戦略として、妊活をする時期が遅くなりそうな女性に提供されています。社会的卵子凍結の増加は、医療とサービスの線引きの難しさや将来の位置づけなど様々な議論が交わされ続けています。 
医学的には36歳より若く実施すると、凍結卵子20〜25個で80〜85%の出生率が期待できます。しかし卵子凍結の利用率は約10%前後と低いことが課題となっています。卵子凍結の費用対効果を考えると、若すぎるより37歳前後が最も高いとされています。さまざまな観点から40歳以上の女性には勧められるべきではないとされています。 

卵子凍結の生物学的、技術的、社会的、倫理的側面に関する集中的な議論を始めるために報告者らが行ったSWOT分析結果が下記になります。 

私見

SWOT分析とは対象事項の初期段階の環境分析に使われることの多いビジネスフレームワークです。SWOTはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4要素から構成されていて、下記では横軸を「内部環境」・「外部環境」、縦軸を「プラス要因」・「マイナス要因」に分けて分析していきます。生殖医療施設が社会的卵子凍結を行っていくかどうかは様々な観点から検討していく必要があります。 

社会の大きな流れ、夫婦のあり方の多様化、女性の社会における選択肢の増加など、様々な観点からあらゆる角度から向き合うテーマだと考えています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵子凍結

# 費用対効果

# 倫理課題

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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