治療予後・その他

2022.07.14

抗HER2ヒトモノクロナール抗体(分子標的薬)治療後は妊娠予後を悪化させる?(Cancer. 2019)

はじめに

HER2タンパクは細胞膜上の受容体型増殖因子であり、HER2過剰発現乳癌は乳癌全体の20~25%を占めます。HER2をターゲットに設計されたヒト化抗体薬はHER2陽性乳癌の予後を劇的に改善しました。ただし、抗HER2ヒトモノクロナール抗体(分子標的薬)の妊娠中の安全性を確認したデータはまだまだ限られています。
抗HER2ヒトモノクロナール抗体(分子標的薬)の妊娠中もしくは妊娠前使用の周産期予後を追跡した報告をご紹介します。

ポイント

HER2陽性早期乳癌患者に対して抗HER2ヒトモノクロナール抗体(分子標的薬)治療後の妊娠において、胎児・周産期予後を大きく損なうことがないことがわかりました。乳がん治療後は妊娠の可能性が低いことには変わりないので、早い段階で妊娠相談に行かれることが好ましいです。

引用文献

Matteo Lambertini, et al. Cancer. 2019. DOI: 10.1002/cncr.31784

論文内容

NeoALTTO試験(Neoadjuvant Lapatinib and/or Trastuzumab Treatment Optimization)とALTTO試験(Adjuvant Lapatinib and/or Trastuzumab Treatment Optimization)は、HER2陽性の早期乳癌を対象とした第3相試験でした。両試験とも、妊娠情報はプロスペクティブに収集されました。妊娠中にトラスツズマブやラパチニブに意図せず曝露された患者(曝露群)と、トラスツズマブやラパチニブ投与終了後に妊娠した患者(非曝露群)の間で妊娠転帰が比較されました。

結果

妊娠女性は92名(曝露群12名、非曝露群80名)で、NeoALTTO試験で7名、ALTTO試験で85名でした。曝露群では7例(58.3%)、非曝露群では10例(12.5%)が堕胎を選択し、非曝露群では10例(12.5%)が稽留流産となりました。妊娠継続症例では、21トリソミー児1名を除き、妊娠・出産に関する合併症は報告されませんでした。妊娠患者(n = 85)と妊娠していない患者(n = 1307)の間で、無病生存期間に差はありませんでした(調整ハザード比、1.12;95%CI、0.52-2.42)。

私見

乳がんは当院でも不妊相談に来られる癌サバイバーの中で一番多い疾患です。
乳がんは、乳がん治療後の妊娠率が低下することがわかっています。今回の報告では、症例数は少ないもののHER2陽性早期乳癌患者に対して抗HER2ヒトモノクロナール抗体(分子標的薬)治療後の妊娠で有害事象が増えていないことがわかりました。患者様にとって有益な情報だと考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 乳がん

# 妊孕性温存

# 周産期合併症

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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