はじめに
エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんの既往がある女性における妊娠の安全性については、依然として議論の余地があります。乳がんサバイバー妊娠女性が非妊娠女性に比べて再発リスク、生存期間が悪化していないか検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
ホルモンレセプター陽性乳がん女性は妊娠後、生存期間や再発期間に影響を与えなさそうです。
引用文献
Lambertini M, et al. J Natl Cancer Inst. 2018. DOI: 10.1093/jnci/djx206.
論文内容
乳がんサバイバーで妊娠した患者333名を、同様の特徴を有する非妊娠患者874名と(1:3)マッチさせた多施設共同ケースコントロール研究です。生存推定値はKaplan-Meier解析により算出し、群間比較はlog-rank検定により行いました。
結果
妊娠後の追跡期間中央値が7.2年時点で、ER陽性妊娠患者(ハザード比[HR]: 0.94, 95%CI: 0.70~1.26, P=0.68)、ER陰性妊娠患者(HR: 0.75, 95%CI: 0.53~1.06, P = 0.10)と非妊娠患者で無病生存率の差は観察されませんでした。
全生存期間は、ER陽性妊娠患者(HR: 0.84, 95%CI: 0.60 to 1.18, P= 0.32)では認められませんでしたが、ER陰性妊娠患者(HR: 0.57, 95%CI: 0.36 to 0.90, P= 0.01)は良好でした。流産、妊娠までの期間、授乳の有無、アジュバント療法の種類は、患者の転帰に影響を及ぼしませんでした。
私見
ホルモンレセプター陽性で妊娠中、高濃度エストロゲンに曝露されたとしても、その後の再発リスク、生存期間に影響は与えなさそうです。さまざまな誤解を解きながら患者様に治療提供していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。