体外受精

2022.09.26

反復着床不全に対する免疫療法のメタアナリシス(Fertil Steril. 2022)

はじめに

反復着床不全や不育症患者には数十年にわたり免疫治療が行われてきていますが、着床の複雑さ(胚の異数性や内膜の経時的な変化)などを考えると、免疫療法がどのように寄与するのかわかっていないことが多くあります。今回取り上げるシステマティックレビュー、メタアナリシスでは、臨床で行われている免疫療法の有効性と安全性を評価し、不妊症、ART、着床不全との関連でその潜在的な作用機序を考察しています。 今回の検討では反復流産患者は除外しています。評価項目は継続妊娠率(妊娠12週以上)、出生率(妊娠22週以降の分娩)としました。

ポイント

反復着床不全に対するアスピリン、ヘパリン、副腎皮質ステロイド、G-CSF、イントラリピッド、IVIG、PBMCなど各種免疫療法について、RCTを中心にメタアナリシスで有効性・安全性を検討されていますが、強く推奨されるものはなさそうです。

引用文献

Pedro Melo, et al. Fertil Steril. 2022 Jun;117(6):1144-1159. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.015.

論文内容

アスピリン 

COX 1と2の両方を不可逆的に阻害し、子宮や卵巣の血流を改善し、炎症を抑え成績に影響するとされています。 この論文では、12本の論文を検討対象としています。非RCT論文は成績向上に寄与するとする流れになっていますが、6本1,319人のRCT論文ではアスピリンの有無により成績改善に差は認められませんでした(RR, 1.04; 95% CI, 0.81-1.33; 6 RCTs; I2 = 28%)。また予後良好群、着床不全1回以上群、子宮内膜菲薄化群でのサブグループ解析でも結果は変わりませんでした。  
<コメント>
アスピリンは、胃腸障害および出血などの合併症は知られていますが、重大な副作用はほぼなく、安価であることから患者様に提案することが多くありました。ただし、保険適応下での使用が難しいため、今後どのようなタイミングで提案していくか検討していく必要があると考えています。 当院では抗リン脂質抗体症候群などの適応を満たした症例以外は保険対象外の胚移植となります。 

ヘパリン

抗血栓作用に加え、IGF1、2、HBEGF、MMPを介して絨毛の浸潤を促進する可能性があると考えられています。 この論文では、6本386人のRCT論文ではヘパリンの有無により成績改善に差は認められませんでした(RR, 1.55; 95% CI, 0.80-3.00; 3 RCTs; I2 = 51%)。  
<コメント>
ヘパリンは、妊娠中の安全性が確認されている薬剤です。使用開始時には頻度は低いですが、ヘパリン起因性血小板減少症・肝機能異常などには注意が必要です。また、ヘパリン使用中は皮下出血や全身のかゆみが出現するため、患者様のQOLが低下する可能性があります。現在までのエビデンスでは良好な結果ではありませんが、比較的難治疾患に絞りRCTが組まれていることもあり、症例数が少ないことも起因しているのではないかと考えています。 当院では、抗リン脂質抗体症候群などの適応を満たした症例以外は保険対象外の胚移植となります。 

副腎皮質ステロイド

子宮NK細胞数または活性を調節し、子宮内膜サイトカイン環境を変化させることにより、子宮免疫環境を改善する可能性が提案されています。 5本449人のRCT論文では副腎皮質ステロイドの有無により成績改善に差は認められませんでした(RR、1.25;95%CI、0.74-2.10;5件のRCT;I2=0)。 副腎皮質ステロイドとアスピリンを併用したRCTは1本あり、こちらも継続妊娠率に影響を与えるかどうかは結論に至りませんでした(RR、1.29;95%CI、0.97-1.71;n = 395)。 最近のメタアナリシスで、抗甲状腺抗体陽性の女性には副腎皮質ホルモンによる治療が出生率改善につながる可能性が報告されています(RR, 2.29;95% CI, 1.07-4.94;2 RCTs;I2 = 0)(Venables A, et al. Reprod Biol Endocrinol 2020)。  
<コメント>
いくつかの研究で、妊娠初期の副腎皮質ホルモンによる催奇形性(口唇口蓋裂児)などが指摘されていましたが、最近は否定的な意見も多く妊娠を通して安全な薬剤と考えられています。もちろん、不眠や軽度の多幸感などステロイド特有の副作用はありますし、周産期合併症(感染リスクなど)の増加や小児の精神・行動障害との関連も指摘されていますので、気管支喘息・自己免疫性疾患を含めて本当に必要な人にのみ長期投与を検討してもいいのではと考えています。 
膠原病や自己免疫性疾患などの適応を満たした症例以外は保険対象外の胚移植となります。 

G-CSF

好中球の増殖と生存を刺激します。ex vivoモデルでは、子宮内膜の遺伝子発現を変化させ、子宮内膜リモデリング、細胞接着経路、局所子宮内膜免疫調節に影響を与える可能性が示されています。子宮内膜菲薄化症例への有効性も報告されており、様々な着床不全症例で使用される機会が増えてきています。 5本844人のRCT論文ではG-CSFの有無により継続妊娠率・出生率に影響を与える可能性を示しています(RR、1.52;95%CI、1.11-2.10;I2=12%)。 子宮内膜菲薄化症例でも、出生率に影響を与える可能性を示しています(RR, 2.57; 95% CI, 1.24-5.29; 1 RCT; n = 304)。  
<コメント>
疲労、骨・筋肉痛はG-CSF治療の一般的な副作用ですが、子宮内投与G-CSF使用では有害事象はほとんど報告されていません。G-CSF皮下注射は否定的な論調が多いですが、質が高くないにしても子宮内G-CSF治療は選択肢に加えてもいいのではと最近感じています。 保険対象外の胚移植となります。 

イントラリピッド

NK細胞活性および炎症性サイトカインの抑制が考えられています。 2本244人のRCT論文では1回以上の着床不全患者を対象に、イントラリピッドの有無により継続妊娠率・出生率に影響を与える可能性を示しています(RR, 1.78; 95% CI, 0.95-3.34; I2 = 26%)。  
<コメント>
イントラリピッドは、感染症、静脈血栓塞栓症、脂肪塞栓症、急性腎障害およびアレルギー反応などの副作用も高用量投与では報告されていますが、着床不全で用いるほどの量・使用頻度であれば問題ないと考えます。比較的患者負担が少ない薬剤ですので、どのような患者に対して提案していくのか今後も報告を注視していきたいと思っています。 保険対象外の胚移植となります。 

免疫グロブリン静注用(IVIG)

IVIGの効果を比較するコホート研究が多数報告されています。対象群はさまざまで、妊娠前Th1/Th2比高値、末梢血NK細胞異常、反復着床不全、抗甲状腺自己抗体症例などです。ほとんどの研究が出生率に効果があるとしています。ただし、RCTは51名の3回以上の着床不全患者を評価した1つしかなく、明確な有用性が示されていません(RR, 1.28; 95% CI, 0.32-5.16)。  
<コメント>
いくつかのコホート研究で示された肯定的なデータや、先日国内から報告された不育症患者への有効性を示すRCTをみていると、着床不全にも有効性が考えられる治療だと思っています。ただし、費用が高いこと、血液製剤であることなどから、どのタイミングで提案するか、どのような症例に提案するかが重要と考えています。 免疫グロブリンは高価であり、血液製剤ということもあり、慎重に症例を選択しています。保険対象外の胚移植となります。 

末梢血単核細胞(PBMC)

PBMCは移植前にヒト絨毛性ゴナドトロピンまたはコルチコトロピン放出ホルモンで培養され子宮内に移植されることが多いです。作用機序はまだ不明な点が多いですが、子宮内膜細胞を活性化しサイトカインまたは着床に有益な因子の産生を刺激する可能性が考えられています。2本312人のRCT論文では子宮内PBMC治療(hCG共培養)の有無により出生率に影響を与える可能性を示しています(RR, 2.03; 95% CI, 1.33-3.10;I2 = 0)。  
<コメント>
現在、国内では再生医療法の範疇となっており、正式に登録し実施している施設は限られています。長期的には関東圏でも実施できる施設がでてくることを期待しています。 

TNF-α阻害剤

TNF-αは、活性化マクロファージ、Tリンパ球、NK細胞、および非免疫細胞によって産生される炎症性サイトカインであり、いくつかの炎症性疾患との関連が指摘されています。TNF-α阻害剤が着床不全を改善するのではないかと考えられています。RCTは確認されず、コホート研究は2件のみであり、現在のところ有効性を示す報告は認められていません。  
<コメント>
現在、当院では行っておりません。 

r-LIF

r-hLIFは出生率を低下させる可能性が報告されています(RR、0.47;95%CI、0.24-0.91;n = 150;確実性の低い証拠)。胚からの発現が着床に影響を与えないこともわかっており、現在では治療オプションとして研究されることもなくなってきています。

私見

免疫療法は、保険診療外となります。反復着床不全以外の不育症でも使用されます。着床不全では、いつはじめるか、不育症では、いつやめるかがポイントとなってきます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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