体外受精

2022.11.08

血中プロゲステロンはERA検査の受容能と関連するか?(Hum Reprod. 2021)

はじめに

ホルモン調整療法周期では、以前は血清プロゲステロン濃度と生殖医療結果は関連しないとされてきました。しかし、最近では血清プロゲステロン値が低くなると妊娠率が低下することが報告されています。しかし、その結果が子宮内膜受容能のずれを引き起こしているかどうかはわかっていません。
ERA®検査のReceptiveの割合が血清プロゲステロン/子宮内膜プロゲステロンと代謝物のエストロン、エストラジオール、17α-ヒドロキシプロゲステロンと関連があるかどうか検証した報告をご紹介いたします。

ポイント

血清プロゲステロン値は子宮内膜プロゲステロンと相関がなく、ERA®テストによるReceptiveの割合とも関連がありませんでした。しかし、子宮内膜プロゲステロン値と内膜17α-ヒドロキシプロゲステロン値は正の相関があり、ERAによるReceptiveの割合と関連することが示されました。

引用文献

E Labarta, et al. Hum Reprod. 2021 Oct 18;36(11):2861-2870. doi: 10.1093/humrep/deab184.

論文内容

血清プロゲステロンおよび子宮内膜プロゲステロンと代謝物のエストロン、エストラジオール、17α-ヒドロキシプロゲステロンが子宮内膜受容能に関連があるか調べた前向きコホート研究です。
2018年から2019年にかけて、エストラジオール製剤(6mg/日)とプロゲステロン腟剤(400mg/12時間)によるホルモン調整周期でERA検査を受けた85名を対象としました。参加者は50歳未満で、体外受精が少なくとも1回着床不全をきたし、子宮に異常なく、子宮内膜厚が6.5mm以上ある症例としました。P+5に子宮内膜生検と血液サンプルを採取しました。

結果

79名の女性(平均年齢:39.9±4.6歳、BMI:24.2±3.9、子宮内膜厚:8.2±1.4 mm)を解析しました。ERAでReceptiveは40.5%でした。Receptive群とNon-Receptive群では、患者背景、血清および子宮内膜のステロイドホルモン濃度に差は認めませんでした。血清プロゲステロンは子宮内膜ステロイドレベルおよびERAの結果と関連は認めませんでした。母集団を代謝物濃度レベルに応じて層別化すると、子宮内膜プロゲステロンおよび17α-ヒドロキシプロゲステロンが子宮内膜受容能と関連しました(P < 0.05)。Receptive割合は、子宮内膜プロゲステロンが40.07μg/ml(relative maximum)より高い場合に高く、子宮内膜17α-ヒドロキシプロゲステロンが0.35ng/ml(first quartile)より低い場合に低くなることが確認されました。子宮内膜プロゲステロンと内膜17α-ヒドロキシプロゲステロン値の間に正の相関R2 = 0.67, P < 0.001が観察されました。

私見

黄体中期の血清プロゲステロンが低くても子宮内膜の分泌性転換を誘導し受容能を獲得します。しかし、受精胚の内膜への浸潤を促進し妊娠維持するためには十分ではない可能性が示唆されました。免疫調整などにも影響がでているのかもしれませんので、臨床研究・基礎研究ともに進めていく必要があるのかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 子宮内膜胚受容能検査

# ホルモン調整周期下胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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