治療予後・その他

2023.02.14

着床前検査は、周産期予後や幼児期の健康に悪影響があるの?(Hum Reprod. 2023 ) 

はじめに

着床前検査は微量ではありますが、胚の一部の細胞を採取する侵襲的な技術ですので、周産期予後も含めて差がないかどうかは様々な角度から議論されています。スウェーデンからの報告と過去の報告をご紹介させていただきます。 

ポイント

着床前検査実施後に生まれた子どもは、体外受精/顕微授精後に生まれた子どもと同等の周産期成績、幼児期の健康状態を示しました。 

引用文献

Erica Ginström Ernstad, et al. Hum Reprod. 2023 Feb 7;dead021. doi: 10.1093/humrep/dead021. 

論文内容

1996年1月から2019年9月にスウェーデンで着床前検査(PGT-M, PGT-SR)後に生まれたすべての単胎児(n = 390)を含む登録ベースを用いたレトロスペクティブコホート研究です。着床前検査後に生まれた単胎児を、同時期に生まれたすべての体外受精/顕微授精で生まれた単胎児(n = 61,060)、自然妊娠後に生まれた単胎児(n = 42,034)のマッチドサンプル(子どもの出生年、母親年齢±5歳、経産数、出産病院または最寄りの出産病院)と比較しました。周産期予後、幼児期の健康、および母体予後を、3群で比較しました。主要評価項目は早産と低出生体重児であり、副次評価項目として子供の健康状態としました。 

結果 

平均追跡期間は、着床前検査後に生まれた子ども:4.6年、体外受精/顕微授精で生まれた子ども:9.0年、自然妊娠後に生まれた子ども5.1年でした。早産は、着床前検査後の子ども:7.7%、体外受精/顕微授精で生まれた子ども:7.3%であり、低出生体重児は4.9%、5.2%でした(それぞれaOR 1.22, 95% CI 0.82-1.81 および aOR 1.17, 95% CI 0.71-1.91)。birth defectsについては、差は認めませんでした。自然妊娠と比較して、着床前検査後に生まれた子どもは早産リスクが高くなりました(aOR 1.73、95%CI 1.17-2.58)。幼児期の健康については、喘息リスクは着床前検査後に生まれた子ども:38/390(9.7%)、体外受精/顕微授精で生まれた子ども:6980/61060(11.4%)、アレルギー疾患リスクは着床前検査後に生まれた子ども:34/390(8.7%)、体外受精/顕微授精で生まれた子ども:7505/61060(12.3%)でした。Cox proportional hazards modelでは、これらに差は認められませんでした。母親転帰について、前置胎盤と帝王切開分娩の割合は、自然妊娠と比較して着床前検査後に有意に高くなりました(それぞれaOR 6.46, 95% CI 3.38-12.37, aOR 1.52, 95% CI 1.20-1.92)が、着床前検査後妊娠と体外受精/顕微授精後妊娠では差がありませんでした。 

私見

● 着床前検査の周産期予後
Meta-analysisその1
37週未満の早産(PGT児 2283人:8研究)、2,500g未満の低出生体重(PGT児 1,938人:7研究)に関して、体外受精単胎児と比較して差がありませんでした(aOR 1.01, 95% CI 0.84-1.22、およびaOR 0.95, 95%CI 0.71-1.28。先天性異常率は同等。
ZhengW, et al. Hum Reprod Update 2021;27:989–1012. 

Meta-analysisその2
着床前検査後出生児と体外受精後出生児と比較して在胎週数や平均出生体重に差はなし。先天性異常率は同等。 

Hou W, et al. Fertil Steril 2021;116: 990–1000. 

● 着床前検査後出生児の健康状態
オーストラリアのコホート研究
喘息、アレルギー、注意力・行動力の問題、うつ病、てんかんに差はなし。
Lewis S, et al. Reprod Biomed Online 2021;42: 609–619. 

ベルギー・オランダの研究
成長、身体組成、血圧、神経、運動、認知の発達を調査し、着床前検査後出生児と体外受精出生児および自然妊娠児に差はなし。
Heijligers M, et al. Fertil . Steril 2019;111:1151–1158.
Heijligers M, et al.Hum Reprod Open 2018;2018:hoy013.
Desmyttere S, et al. Early Hum Dev 2009;85:755–759.
Kuiper D, et al. Hum Reprod 2018;33:147–155.
Belva F, et al. Hum Reprod Open 2018;2018:hoy013. 

13の小規模研究を含むシステマティックレビュー
着床前検査後出生児の9歳までは、認知、行動、精神運動、成長の発達に関して、体外受精後出生児と差はなし。
Natsuaki MN, Dimler LM. World J Pediatr 2018;14: 555–569. 

● 母親の転帰
着床前検査後単胎妊娠155例と体外受精後単胎妊娠150例の比較試験では、preeclampsiaは着床前後に増加したが、妊娠高血圧症候群、前置胎盤、産後出血の発生率に差はなし。
Zhang WY, et al. Fertil Steril 2019;112:283–290.e2. 

妊娠判定時のhCGについて取り上げたコラムはこちら
着床前検査は妊娠時のhCG低下や周産期予後に影響を与えるの?( Fertil Steril. 2020) 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 出生児予後

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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