体外受精

2025.05.09

反復着床不全患者にプレドニゾン10 mg/日内服は生殖成績を改善しない(JAMA. 2023)

はじめに

2020年国際調査によると、臨床医の69%が反復着床不全の原因として免疫因子が関わっていると思っており、46%が免疫療法を提案するとしています。(CimadomoD, et al. Hum Reprod. 2021;36(2):305-317) プレドニゾンは免疫調節薬であり、トロホブラスト細胞の増殖と浸潤を促進し、サイトカインの発現と子宮ナチュラルキラー細胞活性を正常化し、hCG分泌を刺激することが報告されており、安価であること、少量であれば一過性の使用であれば安全性が高いことから慣習的に使われてきた薬剤の一つです。ただし、最近では生殖医療改善に疑問視する声も少なくなく、質の高い研究がなかったのが実情でした。中国からの二重盲検RCTが報告されましたのでご紹介いたします。

ポイント

2回以上の反復着床不全女性715名を対象としたこのRCTにて、出生率はプレドニゾン10mg/日を投与した女性で37.8%、プラセボ投与した女性で38.8%と有意差はなく、免疫調節薬であるプレドニゾンの反復着床不全患者への投与は生殖医療成績を改善しないことがわかりました。

引用文献

Yun Sun, et al. JAMA. 2023 May 2;329(17):1460-1468. doi: 10.1001/jama.2023.5302.

論文内容

反復着床不全を繰り返す女性において、プレドニゾン10mg/日投与はプラセボ群と比較して生殖医療を改善するかどうかを調査するために、2018年11月から2020年8月(最終フォローアップ2021年8月)に中国8生殖医療施設で行われた二重盲検RCTです。2回以上の着床不全歴(臨床妊娠に達しない)があり、採卵時年齢38歳未満、良質胚が獲得できる女性が登録されました。 凍結融解胚移植のための子宮内膜作成日から妊娠判定日もしくは妊娠12週までのプレドニゾン10mg/日(n=357)またはマッチングプラセボ(n=358)のいずれかを含む経口錠剤を1日1回投与するよう無作為化しました。 主要評価項目は出生率(妊娠28週以上)としました。

結果

ランダム化された女性715人(平均年齢32歳)のうち、714人(99.9%)が追跡可能でした。プレドニゾン群では37.8%(135/357)、プラセボ群では38.8%(139/358)で出生に至りました(絶対差、-1.0% [95%CI, -8.1%〜6.1%]; RR, 0.97 [95%CI, 0.81〜1.17]; P = .78)。生化学的妊娠で留まった割合は、プレドニゾン群17.3%、プラセボ群9.9%(絶対差7.5%[95%CI、0.6~14.3%]、RR、1.75[95%CI、1.03~2.99]、P = .04)でした。プレドニゾン群では11.8%、プラセボ群では5.5%の妊娠で早産となりました(絶対差、6.3%[95%CI、0.2~12.4%]、RR、2.14[95%CI、1.00~4.58]、P = .04)。生化学的妊娠、臨床妊娠、着床、新生児合併症、先天性異常、その他の有害事象、平均出生体重に統計的な差は認められませんでした。 また、反復着床不全2、3、4、5回以上である女性、年齢、BMI、そのほかの免疫異常を疑う検査陽性群でも差を認めませんでした。

プレドニゾン群プラセボ群RR (95%CI)
抗核抗体陽性13/28(46.4)8/24(33.3)1.39(0.70,2.78)
抗核抗体陰性98/261(37.5)103(40.1)0.94(0.75,1.16)
抗カルジオリピン抗体陽性3/5(60.0)1/5(20.0)3.00(0.45,19.92)
抗カルジオリピン抗体陰性104/270(38.5)105/264(39.8)0.97(0.78,1.20)
抗dsDNA抗体陽性23/60(38.3)18/49(36.7)1.04(0.64,1.70)
抗dsDNA抗体陰性68/169(40.2)67/179(37.4)1.08(0.83,1.40)

私見

過去の主たる報告は以下の通りです。

  • 16RCTを対象としたコクラン・レビューでは、一般的な体外受精の集団において、出生率、臨床妊娠率、流産率のコルチコステロイドが臨床結果に有益であるというエビデンスは認められませんでした。Boomsma CM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022;6(6): CD005996.
  • 1-2回の着床不全患者295名対象に行ったRCTにてプレドニゾロン+LMWH併用療法で、着床率(23.9% vs. 14.7%, P < .001)、臨床妊娠率(40.7% vs. 27.5%, P = .02)の改善を認めました。 Fawzy M, et al. Arch Gynecol Obstet. 2014;289(3):677-680.
  • 抗核抗体陽性で1回着床不全患者133名を対象に、プレドニゾン+アスピリン併用療法で着床率(27.4%vs. 13.6%, P = .002)、臨床妊娠率(53.3% vs 30.1%, P = .007)の改善を認めました。 FanJ, et al. Am J Reprod Immunol. 2016; 76(5):391-395.

今回の報告でも、胚移植12-15日後のβ-hCG ≥ 10 mIU/mLはプレドニゾン群54.9%、プラセボ群50.8%と差がないもののhCGに対するブースト効果があるのではないか、10mg/日だから足りないのではないか、併用療法だと解決するのではないか、という含みを持たせたディスカッションとなっています。 不育症・反復着床不全の治療効果は複雑で、RCTでは差を導き出せない可能性があります。患者個々に応じてエビデンスを中心に治療方針を選択していくことが必要だと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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