はじめに
無精子症は男性の約1%に認められる病態で、その多くが非閉塞性無精子症(NOA)です。NOAの原因は染色体異常、Y染色体微小欠失を含む遺伝子異常、停留精巣、精巣捻転など様々ですが、臨床現場では遺伝学的原因を特定することはしばしば困難です。NOAに対する標準的治療は顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)であり、我が国ではSertoli cell only(SCO)の症例が多いことから、より広範囲に精細管を観察できるmicro-TESEが推奨されています。今回、同一家系内の兄弟でNOAを呈し、両者ともmicro-TESEにて精子を採取でき、ICSIを行い生児を獲得できた症例をご紹介します。
ポイント
同一家系内の兄弟でNOAを呈した場合、両者ともmicro-TESEで精子採取が可能であり、生児獲得に至ることができます。兄弟の一方にNOAが認められた場合、他の同胞にも男性不妊因子の存在を考慮する必要があります。
引用文献
寺岡香里ら. 日本受精着床学会雑誌 40(1): 90-96, 2023.
論文内容
本報告は同一家系内で非閉塞性無精子症を呈し、顕微鏡下精巣内精子採取術を行い精子を獲得した兄弟の2症例です。
症例1(兄)
37歳で6年6ヶ月の不妊歴にて受診しました。精液検査を2回施行しましたが、いずれも遠沈後においても精子を認めませんでした。精巣体積はみぎ13mL、ひだり10mLで、血清ホルモン検査ではLH 19.2 mIU/mL、FSH 32.4 mIU/mLとゴナドトロピンが高値でした。精巣体積やゴナドトロピンの値からNOAと判断されました。腰椎麻酔下にてmicro-TESEを施行し、右精巣から11箇所ほど精細管を採取、運動精子を確認しました。精巣組織の病理所見では、精細管内にはSertoli細胞のみが認められ、精細管の固有膜は硝子膜形成を伴って肥厚しており、間質にリンパ球の浸潤が軽度から中等度に認められました。その後、micro-TESEで得た精子を用いたICSIで受精胚を得て、胚移植後生児1人を獲得しています。
女性パートナー(兄の配偶者):
30歳で受診し、子宮内膜症性嚢胞を両側卵巣に認め、腹腔鏡下内膜症病変焼灼術、付属器周囲癒着剥離術を施行しました(rASRM分類 Stage IV、94points)。術後、採卵1回(GnRHアゴニストロングプロトコール)、凍結精子での顕微授精、自然排卵周期凍結融解胚移植1回にて妊娠成立し、37週1日に帝王切開を施行し生児を獲得しました。
症例2(弟)
35歳で5年4ヶ月の不妊歴があり、兄に相談したところ受診を勧められました。精巣体積は左右とも20mLで、血清ホルモン検査ではLH 7.8 mIU/mL、FSH 16.7 mIU/mLとFSHの高値を認めました。染色体Gバンドの結果は46,XY(非モザイク)であり、AZF欠失を認めませんでした。局所麻酔下にmicro-TESEを施行し、右側の精細管から運動精子が確認されました。病理組織所見としては、小口径の萎縮性精細管に精子形成の欠如(Sertoli細胞のみ)、基底膜の肥厚が認められ、間質には軽度のリンパ球浸潤があり、精巣炎の沈静化が示唆されました。その後、TESE精子を用いたICSIで受精胚を得て、胚移植後生児2人を獲得しています。
女性パートナー(弟の配偶者):
34歳で受診し、採卵4回(GnRHアゴニストショートプロトコール)、ホルモン調整周期凍結融解胚移植4回にて妊娠成立し、37週6日に経腟分娩にて第1子を獲得しました。第2子は4回目の採卵の凍結胚を用いて、ホルモン調整周期凍結融解胚移植1回にて妊娠成立し、37週5日に経腟分娩にて生児を獲得しました。
私見
NOAの診療に際しては、不妊症の家族歴も聴取し、特に兄弟がいる場合はその情報を収集することも考慮すべきと考えられます。我が国では血縁関係のある兄弟でのNOA合併例の報告は極めて稀であり、本報告は貴重な症例と考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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