プレコンセプションケア

2021.11.16

肥満と不妊(Fertil Steril. 2021)

はじめに

肥満と生殖について、2021年ASRM 専門家委員会のコメントが報告されました。肥満の定義はインスリン抵抗性と密接に関連した脂肪蓄積による疾患で、BMI(body mass index)に基づいています。BMIと体脂肪率は正の相関関係にありますが、性別、年齢、人種・民族によって差があります。アジア人は白人に比べてBMIが23〜25kg/m2と低くても糖尿病や心血管疾患の発症リスクが高くなります。今回のコメントの要点をまとめさせていただきます。

ポイント

肥満は男女ともに生殖機能に影響を及ぼし、妊娠中の母体・胎児合併症リスクも上昇させます。治療の第一選択は生活習慣改善ですが、体重管理に時間をかけすぎると加齢によるリスクが高まるため、バランスを考慮した治療開始のタイミングが重要です。

引用文献

Obesity and reproduction: a committee opinion Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.018

論文内容

  • 肥満の女性や男性の多くは妊娠可能です。
  • 女性の肥満は、排卵機能障害、排卵刺激に対する卵巣反応性の低下、卵子や子宮内膜の機能の変化、出生率の低下と関連しています。
  • 肥満女性は、妊娠中に母体および胎児の合併症を発症するリスクが高くなります。
  • 男性の肥満は、生殖機能の低下と関連している可能性があります。
  • 肥満に対する治療は、女性も男性も生活習慣の改善が第一であり、改善がない場合などに補助的な医学療法が行われるべきです。
  • 女性および男性における肥満手術は、体重減少のための生活習慣の改善および内科的治療の重要な補助手段でありますが、女性の妊娠許可は術後1年間延期すべきとされています。

私見

肥満は生殖や母体・胎児に与える影響が大きく、妊娠前にしっかりカウンセリングを行うべきとしています。ただし、体重管理のために長期間かかってしまうと加齢がすすみ、逆にリスク上昇を促してしまう可能性があるため、バランスを見ながら患者さまに生殖医療を提供するタイミングを検討していく必要がありそうです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# インスリン抵抗性、HOMA

# 体重、BMI

# プレコンセプション

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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