はじめに
日本では着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は臨床研究段階であり、一定の基準を満たさないと実施できません。その結果、ERA検査をPGT-Aの前に実施する機会が多くあります。
この論文はIgenomix開発者が以前に在籍していたIVIグループから発信されたERA検査に対してネガティブな論文です。
ポイント
中等度RIF患者にPGT-Aは有効でした。
引用文献
Mauro Cozzolino et al. J Assist Reprod Genet. 2020 DOI: 10.1007/s10815-020-01948-7
論文内容
反復着床不全(RIF)患者におけるERA検査および着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の臨床的有用性を評価しています。
ヨーロッパIVIグループのクリニックデータを用いて、2013年から2018年に3回以上の単一胚移植で3個以上、または5個以上の受精胚を移植した後に着床に至らなかった18~45歳の女性患者(平均年齢38歳前後、自己卵子・提供卵子ともに含む)を対象とし、後方視的に多施設研究を実施しました。
患者はそれぞれ中等度(3個以上)または重度(5個以上)のRIFと分類しました。PGT-A、ERA、またはPGT-A+ERAを実施した患者と、検査を受けていない対照群とを比較しました。平均着床率と胚移植あたりの継続妊娠率を主要転帰とした。多重ロジスティック回帰分析にてオッズ比を算出いたしました。
結果
中等度RIF群に属する2110名の患者のうち、PGT-A後に正倍数性受精胚移植を受けた患者は、受けなかった患者に比べて着床率、継続妊娠率ともに高くなりました。重度のRIF群の488名の患者については、PGT-A、ERAのどちらを実施しても統計学的に着床率、継続妊娠率に有意な改善は見られませんでした。ERA検査の使用は、中等度・重度のRIF群ともに着床率、継続妊娠率を有意に改善しませんでした。
結論
PGT-Aは中等度の反復着床不全患者には有益であるが、重症例には有効ではありません。現在の開発レベルでは、ERAはRIF患者には臨床的には有用ではないようです。
| 妊娠数 | 妊娠系継続率 | |||
|---|---|---|---|---|
| M-RIF(>3個) | S-RIF(>5個) | M-RIF(>3個) | S-RIF(>5個) | |
| 対照群(検査なし) | 946 | 201 | 35.89% (34.05–37.75) | 34.01% (30.19–37.99) |
| ERA検査のみ | 58 | 14 | 36.25% (28.81–44.21) | 40.00% (23.87–57.89) |
| PGT-A検査のみ | 84 | 26 | 45.90% (38.53–53.41) | 36.11% (25.12–48.29) |
| PGT-A+ERA | 7 | 2 | 33.33% (14.59–56.97) | 33.33% (4.33–77.72) |
私見
ERA検査は安い検査ではありませんし、どのような患者様に実施するのか、そしてERA検査で個別化胚移植を実施し妊娠しなかった際、何を考えるかが大事だと考えています。
不妊治療は原因が見つかれば介入する、検査をしても原因がでなければ妊娠率改善に寄与しないという目線でみると、この論文の結果も、ERA検査もPGT-Aもやったから妊娠に結びつくわけではないというのも当然といえば当然ですよね。
ERA検査をして着床時期がずれていたら補正したら妊娠率に寄与する。PGT-Aも胚盤胞になっても異常が多い名が正倍数性の胚盤胞に限定して移植した際に妊娠率に寄与する。では、そうでない場合は何を考えなければいけないのか、ここが次の反復着床不全患者に対して検討していかなければならないところなんだと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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