
はじめに
自然排卵周期凍結融解胚移植には様々な修正法(hCGトリガー、アロマターゼ阻害薬、黄体期プロゲステロン補充)が存在しますが、これらの修正が出生率に与える影響についてのデータは限られています。今回、4つの異なる自然排卵周期凍結融解胚移植プロトコルにおける出生率を比較した大規模レトロスペクティブ研究をご紹介いたします。
ポイント
一般的に使用される修正自然周期凍結融解胚移植の様々なバリエーション(真の自然周期、腟プロゲステロン補充のみ、hCGトリガー+腟プロゲステロン、アロマターゼ阻害薬+hCGトリガー+腟プロゲステロン)において、交絡因子調整後の出生率は同等でした(51.6%)。
引用文献
Hargreaves C, et al. Fertil Steril. 2025;124(5P2):1042-1050. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.06.036.
論文内容
2014年1月から2021年12月の間に、米国の単一大学関連不妊治療クリニックで自然周期、修正自然周期、刺激周期による単一凍結融解胚移植を受けた患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。
プロトコル詳細
4つの一般的に使用される修正自然周期、刺激周期、自然周期凍結融解胚移植プロトコルを評価しました。
プロトコル1(N、276周期)は真の自然周期で、修正なし(腟プロゲステロンなし、hCGトリガーなし、アロマターゼ阻害薬なし)、血清ホルモン値と超音波検査を2-4日ごとに実施し、LHサージ確認後(血清プロゲステロン上昇≥1.2 ng/mL確認)6日後に胚移植を行いました。
プロトコル2(VP、1,306周期)は腟プロゲステロン補充のみで、Crinone 90mg/日またはEndometrin 100mg 1日2回を胚移植の3日前(LHサージ+3日後)から開始し、妊娠検査陰性までまたは妊娠8週まで継続しました。
プロトコル3(A_H_VP、1,179周期)はアロマターゼ阻害薬+hCGトリガー+腟プロゲステロンで、レトロゾール2.5mgまたは5mgを月経周期3-7日目に投与し、主席卵胞≥18mm、かつ子宮内膜厚≥7mmの時点で遺伝子組み換えhCG(Ovidrel 250μg)またはhCG 10,000 IUを投与、hCGトリガー後4日目から腟プロゲステロンを開始し、トリガー後7日目に胚移植を行いました。
プロトコル4(H_VP、2,039周期、対照群)はhCGトリガー+腟プロゲステロンで、プロトコル3と同様の条件でhCGトリガーと腟プロゲステロンを使用しましたが、アロマターゼ阻害薬は使用しませんでした。
最も一般的に使用されるプロトコル4(H_VP、全周期の42.5%)を対照群としました。主要評価項目は凍結融解胚移植当たりの出生率です。
結果
3,517名4,806周期が含まれました。平均年齢は採卵時34.7-35.3歳、凍結融解胚移植開始時35.4-35.9歳、平均BMIは25.3-26.8 kg/m²でした。ICSI使用率は39.1-51.4%、PGT-A実施率は37.0-51.1%、98%以上が良好胚質の胚盤胞(Day5-6凍結)でした。平均子宮内膜厚は9.0-10.1mmでした。全凍結融解胚移植周期の出生率は51.6%(2,480/4,806周期)で、H_VP対照群53.4%(1,090/2,042周期)、N群(修正なし)41.3%(114/276周期)、VP群50.9%(666/1,306周期)、A_H_VP群51.7%(610/1,179周期)でした。未調整解析では、N群(修正なし)は対照群(H_VP)と比較して出生率が有意に低い結果でした(RR 0.77 [95%CI: 0.64-0.94])。しかし、交絡因子(年齢、BMI、採卵年、子宮内膜厚、既往移植回数、PGT-A実施、胚凍結日齢、経産歴、排卵障害、原因不明不妊)を調整した後は、4つの修正自然周期プロトコル間で出生率に有意差は認められませんでした(aRR 0.88 [95%CI: 0.67-1.14])。ただし、post hoc検出力解析では、対照群と真の自然周期群との間で有意差を検出するには8,000周期が必要と推定されました。副次的評価項目として、全体妊娠率は58.3%(N群)から70.7%(HVP群)の範囲でプロトコル間に有意差がありました(P<0.001)。異所性妊娠率は0.3-0.7%で有意差なし(P=0.47)、流産率は5.8-7.6%で有意差なし(P=0.46)、平均分娩週数は全プロトコルで少なくとも39週以上でした。採卵年と出生率との間に、未調整・調整後モデルの両方で有意な関連は認められませんでした。
私見
Gao DD, et al. Front Med (Lausanne), 2021の大規模レトロスペクティブ研究(傾向スコアマッチング使用)では、Day3初期胚移植中心の症例において、黄体補充なし+hCGトリガー使用群(尿由来hCG 10,000 IU)の出生率が27.5%と、真の自然周期の36.3%と比較して有意に低下することが示されました。一方、Mackens S, et al. Hum Reprod, 2020の無作為化比較試験では、352周期のDay3→Day4移植において、黄体補充なし+hCGトリガー群(尿由来hCG 5,000 IU)と自然LHサージ群の臨床妊娠率に有意差は認められませんでした(29.1% vs 31.1%、P=0.20)が、hCGトリガーによる改善効果も認められませんでした。これらの研究から、黄体補充なし+初期胚移植の文脈では、hCGトリガーは少なくとも有益とは言えず、むしろ避けるべきという結論が導かれます。
対照的に、黄体補充を併用した実臨床における研究では異なる結果が示されています。Holder JL, et al. J Hum Reprod Sci, 2023のレトロスペクティブ研究では、胚盤胞移植中心、96%の症例で黄体補充併用という実臨床型プロトコルにおいて、hCGトリガー群と非hCG群の間で臨床妊娠率(59.3% vs 58.9%)、出生率(40.0% vs 43.2%)に有意差は認められませんでした。本研究も同様に、黄体補充併用・胚盤胞移植中心(98%以上がDay5-6凍結)の文脈において、hCGトリガーを含む様々な修正が出生率に影響しないことを示しています。
本研究は、黄体補充併用・胚盤胞移植を前提とした修正自然周期凍結融解胚移植において、hCGトリガーやアロマターゼ阻害薬の使用が出生率に悪影響を与えないことを示しました。ただし、黄体補充の有無と移植胚のステージにより、hCGトリガーの影響は異なる可能性があります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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