
はじめに
胚凍結保存技術において、ガラス化法は体外受精の重要な要素となっており、標準的なガラス化・融解法は段階的アプローチでしたが、科学的および実用的必要性からワンステップ急速融解法が検討されはじめてきています。今回、ワンステップ急速融解法の有効性を評価した前向きコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
ワンステップ急速融解法は従来の段階的融解法と比較して、生存率および妊娠予後において同等の成績を示し、その簡便性と効率性から臨床現場での有用性が高い可能性があります。
引用文献
Karagianni M, et al. Fertil Steril. 2025;124(6):1272-82. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.07.005.
論文内容
2023年1月から2024年6月にギリシャのEmbryolab Fertility Clinicで実施された前向きコホート研究です。ガラス化・融解胚盤胞の凍結融解胚移植サイクルにおけるワンステップ急速融解法の生存率と妊娠予後への影響を評価することを目的としました。802回の凍結融解胚移植から1,182個の胚が対象となりました。研究群と対照群はともに良好な拡張胚盤胞(GardnerのAA、AB)を含み、対照群は治療法、時期、母体年齢、胚の質、移植胚数に基づいて研究群と一致するよう選択されました。ワンステップ急速融解群では、1M スクロース溶液に37°Cで1分間曝露後、直ちに培養液に移してレーザー補助孵化を実施しました。対照群では従来法として、1Mに1分、0.5Mに2分、0.25Mに2分、洗浄液に3分を室温で行い、その後培養液でレーザー補助孵化を実施しました。
結果
妊娠率はワンステップ急速融解群と対照群で同等でした(72.82% vs. 69.58%、RR=1.12、95%CI: 1.39)。臨床妊娠率も有意差を認めませんでした(56.86% vs. 57.36%、RR=0.98、95%CI: 0.84-1.16)。生化学的流産率も同等でした(15.61% vs. 12.46%、RR=1.05、95%CI: 0.96-1.14)。流産率は両群とも6.23%でした。継続妊娠率(50.62% vs. 51.12%、RR=0.99、95%CI: 0.86-1.14)および出生率(49.38% vs. 51.12%、RR=0.96、95%CI: 0.84-1.11)も有意差を認めませんでした。生存率は両群ともに100%でした(P>.999)。
ドナー卵子サイクルおよび自己卵子サイクルのサブグループ解析でも、妊娠率、臨床妊娠率、着床率、継続妊娠率、生化学的流産率、流産率、出生率のすべてにおいて両融解法間で有意差は認められませんでした。さらに、単一胚移植は二胚移植と比較して、自己卵子サイクルと提供卵子サイクルの両方で、着床率と単胎出生率が有意に高い結果を示しました。
私見
ワンステップ急速融解法が従来の多段階融解法と同等の生存率および臨床成績を示すことを実証しました。この知見は、Manns et al.(2021)、Taylor et al.(2022)、Hrvojevic et al.(2023)、Liebermann et al.(2024)、Jiang et al.(2024)、Shioya et al.
興味深いことに、初期胚喪失に関して先行研究と本研究では異なる結果が報告されています。Hrvojevic et al.(2023)はワンステップ急速融解法群で流産率の低下を報告し、Liebermann et al.(2024)も継続妊娠率の改善(流産率の低下を示唆)を報告しています。一方、本研究では流産率は両群とも6.23%と同等でした。さらに、本研究ではfast warming群で生化学的流産率がやや高い傾向を認めました(15.61% vs. 12.46%、統計的有意差なし)が、先行研究の多くはこの指標を詳細に報告していません。これらの不一致の原因として、対象集団の違い(本研究は良好胚盤胞のみ)、サンプルサイズの違い、融解法の微妙な手技の違いなどが考えられます。
ワンステップ急速融解法が適さない症例があるのか、それとも置き換わっていくのかどうなんでしょうか。シークエンシャルとワンステップが共に使用される培養液のように共に残っていくのか片方に集約化されていくのか、動向が楽しみです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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