はじめに
着床不全の原因は多岐にわたりますが、中でも受精胚の異数性は最も一般的な原因であり、胚発育停止、着床不全、流産の主因となっています。35歳未満の女性でも胚盤胞の半数近くが異数性なのではとされており、すべての移植胚が着床・出生に至ることは非現実的です。
何個の受精胚が着床に失敗した時点で反復着床不全と診断すべきか、女性年齢別の胚盤胞異数性率を考慮した反復着床不全の新しい定義を提案した報告をご紹介いたします。
ポイント
反復着床不全の診断は、女性年齢と予測される胚盤胞異数性率を考慮する必要があります。どのような着地をみていくかは今後の課題です。
引用文献
Baris Ata, et al. Fertil Steril. 2021 Nov;116(5):1320-1327. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.06.045.
論文内容
女性年齢別に報告されている胚盤胞異数性率に基づき、累積着床確率を数理モデル化することを目的とした研究です。受精胚の異数性以外に着床に影響を及ぼす要因がないと仮定した場合に、事前に設定した累積着床確率を達成するために必要な胚盤胞数を算出しました。
各年齢カテゴリーの胚盤胞異数性率は、女性年齢に関連した異数性率を報告した研究から範囲を取得しました。正倍数性胚盤胞の着床率は女性年齢とは独立しており、45%から65%の範囲と報告されています。各胚盤胞は独立した単位であり、着床確率はベルヌーイ分布に従うと仮定しました。したがって、n個の胚盤胞移植における着床確率は二項分布に従います。正倍数性胚の着床率を45%、55%、65%として結果をシミュレーションしました。異数性受精胚の着床確率は1%としました。
結果
着床前遺伝学的検査を受けていない(すなわち異数性の状態が不明な)受精胚移植では、正倍数性胚着床率のすべての仮定において、どの年齢カテゴリーも3個の胚盤胞移植では少なくとも1個の受精胚が着床する95%累積着床確率に到達しませんでした。35歳未満の女性では、正倍数性胚着床率が45%から55%の場合、7個の胚盤胞移植後に少なくとも1個の胚盤胞が着床する95%累積着床確率に達し、正倍数性胚着床率65%の場合は6個の胚盤胞移植後に達しました。同じ閾値に達するために必要な胚盤胞数は高齢患者ではより多くなります。例えば、38歳を超える女性では、確率の上限範囲が95%の閾値を満たすために10個以上の未検査胚盤胞の移植が必要であり、42歳を超える女性ではすべての着床率仮定において、その数は非現実的に大きくなります。
一方、正倍数性胚であることが分かっている場合、正倍数性胚盤胞の着床率を55%と仮定すると、3個および4個の胚盤胞でそれぞれ90%および95%を超える累積着床確率に達します。これらの数値は、ほとんどの女性が95%の累積着床率を達成するには3個の正倍数性胚移植で十分であることを示唆したPirteaらの知見と一致しています。
私見
反復着床不全の定義が女性年齢と予測される異数性率から独立してはならないことを強調しています。受精胚の異数性が着床不全の最も一般的な原因であるためです。
受精胚異数性率に関して、Demko ZP, et al. Fertil Steril. 2016、Irani M, et al. Hum Reprod. 2020、Hong KH, et al. Fertil Steril. 2019などの複数の研究が、女性年齢別の胚盤胞異数性率を報告しており、本研究のモデルの基礎となっています。これらの研究間で異数性率には若干のばらつきがあるものの、全体的な傾向は一貫しています。
正倍数性胚の着床率については、Munne S, et al. Fertil Steril. 2019、Forman EJ, et al. Fertil Steril. 2013などが、女性年齢とは独立して45%から65%の範囲であることを報告しており、本研究の仮定を裏付けています。
反復着床不全の定義に関して、Cimadomo D, et al. Hum Reprod. 2021は、臨床医と胚培養士を対象とした国際調査において、反復着床不全の定義、診断、治療選択肢について意見が分かれていることを報告しています。本研究は、より科学的根拠に基づいた定義を提案することで、この問題に対処しようとしています。
Baris Ataらは、受精胚の異数性以外の要因による着床不全の可能性が合理的に高くなるまで、反復着床不全と診断すべきではないとしています。特に38歳以上の女性では、95%(または80%)の累積着床確率に達するために必要な未検査胚盤胞数が非常に多いため、着床前遺伝学的検査から開始して、受精胚の異数性によらない着床不全を特定し、他の要因を考慮することが議論の余地があるとしています。
なかなか研究の診断基準としてはつかいづらいですが、臨床現場では活用できそうですね。患者様との治療方針を決める判断材料にしていこうと思っています。
| 着床率 45% | 着床率 55% | 着床率 65% | |
|---|---|---|---|
| 35歳未満 | 4-5個 | 3-4個 | 2-3個 |
| 35-37歳 | 5-6個 | 4-5個 | 3-4個 |
| 38-40歳 | 7-8個 | 6-7個 | 5-6個 |
| 41-42歳 | 12-13個 | 10-11個 | 8-9個 |
| 43歳以上 | 23-24個 | 20-21個 | 17-18個 |
| 正常胚の場合 | 2-3個 | 2-3個 | 1-2個 |
文責:川井清考(WFC group CEO)
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