体外受精

2021.10.15

EmbryoGlueの凍結融解胚移植での有効性(Fertil Steril. 2021)

はじめに

着床には胚移植時の培養液の組成が重要であると考えられ、接着化合物について多くの研究がなされています。ヒアルロン酸はヒト子宮内膜に存在する主要な高分子の一つであり、増殖期中期から分泌期後期にかけてピークを迎えることから、着床に重要な分子であることが示唆されています。
Cochraneのメタアナリシスでは、0.5 mg/mLの濃度でヒアルロン酸添加した培養液を使用することにより、体外受精における出生率が向上すると結論づけています(OR 1.41; 95%CI 1.17-1.69; 6件の研究; n = 1,950)。このエビデンスは中程度の質とされており、ほとんどの研究は新鮮胚移植周期で実施されています。
凍結融解胚移植のデータは非常に限られており、Cochraneで取り上げた4つの研究では、凍結融解胚移植後の臨床妊娠率(OR 1.14、95%CI 0.77-1.69、n=506)や出生率(OR 0.97、95%CI 0.52-1.80、n=163)に差を認めませんでした。
凍結融解胚移植のヒアルロン酸添加培地の効果について比較した質の高い研究報告が出てきましたのでご紹介いたします。 

ポイント

凍結融解胚移植においてヒアルロン酸高濃度添加培養液(EmbryoGlue)と標準培養液では出生率に差を認めませんでした。一方、EmbryoGlue群で出生体重が有意に高い結果となりました。 

引用文献

Sofie Shuk Fei Yung, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.015 

論文内容

凍結融解胚移植の生殖医療成績をヒアルロン酸添加移植用培地と標準培地で差があるかどうか、2つの不妊治療施設で無作為化、二重盲検、対照試験を行いました。 
対象者は体外受精を実施した43歳未満の女性とし、ヒアルロン酸濃度0.5mg/mLのEmbryoGlue群、ヒアルロン酸濃度0.125mg/mLのG-2群に割り振りました。 
使用した培地は、Vitrolife社のもので、EmbryoGlueはG-2から開発されたヒアルロン酸添加量を増やした胚移植用の培地です。この2つの培地の主な違いは、EmbryoGlueのヒアルロン酸濃度が高いことです(0.5 vs. 0.125 mg/mL)。さらに、EmbryoGlueには2.5mg/mLのリコンビナントヒト血清アルブミンが含まれており、G-2には10mg/mLのヒト血清アルブミンが含まれています。 

結果 

2016年4月から2018年4月までに550人の女性をリクルートしintention-to-treat分析を行いました。2群の患者・治療背景は類似していました。EmbryoGlue群とG-2群の出生率は同程度でした(25.5% vs. 25.8%、RR 0.99、95%CI 0.74-1.31)。臨床的流産と多胎妊娠の割合も2群間で同程度であり、出生時体重はG-2群よりもEmbryoGlue群の方が有意に高くなりました。 
ロジスティック回帰の結果、ヒアルロン酸濃度の培養液により出生率に差を認めませんでした。 

私見

この論文のサブグループ解析で凍結融解胚移植周期の成績ですが、排卵周期の方がホルモン調整周期より有意に生殖医療成績が改善しています。その他に成績が改善している項目は女性年齢・胚盤胞移植・良好胚移植と皆が納得できる項目であり、それと同等に排卵周期の胚移植の有用性が認められてきたのは、ホルモン調整周期が多い日本の内膜調整も見つめ直す時期になってきているのかもしれません。 
過去の報告ではホルモン調整周期も排卵周期も成績が変わらないことになっていますが、患者様に適した移植方法を個別化していく必要性を最近強く感じています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 培養液

# ホルモン調整周期下胚移植

# 凍結融解胚移植

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

移植前情報(体外受精)に関連するタグ

# 手術

# 生活習慣

# 胚盤胞

# 周産期合併症

# インスリン抵抗性、HOMA

# 精子DNA損傷検査

# 培養液

# 出生児予後

# 異所性妊娠

# タイムラプス

# 媒精(IVF)

# 基礎研究

# 黄体補充

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# ビタミン

# 新鮮胚移植

# がんと生殖医療

# 胎盤異常

# 不育症(RPL)

# ドナー・サロゲート

# クロミフェン、AIなど

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# ホルモン調整周期下胚移植

# 初期胚移植

# 顕微授精(ICSI)

# 低刺激排卵誘発法

# 慢性子宮内膜炎

# ハイリスク妊娠

# サプリメント

# 帝王切開

# メトホルミン

# 凍結融解胚移植

# 細菌性膣症

# 帝王切開瘢痕症候群

# ラクトバチルス

# 年齢素因

# 多胎

# 子宮内細菌叢検査

# 凍結受精卵

# 卵子の評価

# 精液所見

# 胚移植(ET)

# 子宮内膜ポリープ

# 透明帯孵化補助(AHA)

# 卵巣刺激

# マーカー・遺伝子

# hCG

# 子宮内膜厚、形態

# 妊娠糖尿病

# 良性腫瘍

# 卵巣予備能、AMH

# LUF

# 子宮内膜症

# 妊娠高血圧症候群

# ロング法、ショート法

# 総説、RCT、メタアナリシス

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 子宮形態異常

# 反復着床不全(RIF)

# 体重、BMI

# 費用対効果

# 子宮鏡

# 受精卵の評価

# 排卵周期下胚移植

# 胚質評価

# AI・統計的手法

# 流産、死産

# 染色体

# 排卵誘発、トリガー

# 予防介入

# 疫学研究・データベース

あわせて読みたい記事

PGT-Aは誰に実施されている?米国リアルワールドデータ(Hum Reprod Open. 2026)

2026.09.21

Nugent scoreは子宮内膜の細菌叢を反映する?(当院関連論文:Front Endocrinol. 2026)

2026.09.17

初回体外受精前の子宮鏡検査は出生率を改善する?inSIGHT試験(Lancet. 2016)

2026.07.13

既往帝王切開が体外受精治療成績に与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.07.03

精子DNA断片化はPGT-Aの結果に影響するのか?―胚染色体の正倍数性と男性因子の新たな視点 (Eur J Med Res、2025)

2026.05.02

体外受精の人気記事

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08