はじめに
性肥満と出生率や流産などとの間に関係があることは知られています。しかし、これらの結果が子宮内環境の悪化、卵子の質の低下、あるいは複合的な原因によるものかどうかは、現在のところ分かっていません。BMIとPGT-A(着床前診断)結果を調査した報告をご紹介させていただきます。
ポイント
BMIは正倍数性胚、モザイク胚、異数性胚の数や割合と関連がなく、肥満による生殖予後への悪影響は胚の染色体異常以外の要因による可能性が示唆されました。
引用文献
Stovezky YR, et al. Fertil Steril. 2021 Aug;116(2):388-95. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.029.
論文内容
この研究の目的は、BMIと胚の異数性およびモザイシズムとの関連を、次世代シークエンサー(NGS)技術を用いた栄養外胚葉生検によるPGT-Aを実施したIVF患者コホートで評価することです。2017年1月1日から2020年8月31日の間に、学術施設で栄養外胚葉生検とPGT-Aを伴う初回IVF周期を受けた患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。BMI分類で低体重(BMI <18.5 kg/m²)の患者と新鮮胚移植を受けた患者は除外されました。主要アウトカムは異数性胚の数と割合、副次アウトカムは正倍数性胚とモザイク胚の数と割合、および生検された胚盤胞の数でした。
結果
患者はWHOのBMI分類に従って層別化されました:標準体重(18.5-24.9 kg/m²、n=1,254)、過体重(25-29.9 kg/m²、n=351)、肥満(≥30 kg/m²、n=145)。年齢調整回帰モデルでは、BMI分類と異数性胚の数または割合との間に関連は認められませんでした。過体重および肥満患者と標準体重参照群との間で、モザイク胚または正倍数性胚の数や割合においても統計学的に有意な関連は認められませんでした。35歳未満、35-40歳、40歳超の年齢群に分類した患者のサブグループ解析でも同様に、BMIと胚の倍数性アウトカムとの間に関連は認められませんでした。生検された胚盤胞の総数にも群間で差は認められませんでした。年齢調整線形回帰モデルを用いて異数性胚の割合とBMI群との関連を検討したところ、過体重および肥満患者と標準体重参照群を比較しても統計学的に有意な関連は認められませんでした。
私見
本研究の重要な知見は、BMIと胚の異数性との間に関連が認められなかったことです。これまでドナー卵子を用いたIVFモデルでの研究では、肥満レシピエントでIVF予後が劣るとする報告(Bellver J, et al. Fertil Steril. 2013、Provost MP, et al. Fertil Steril. 2016)と、BMI分類間で有意差がないとする報告(Jungheim ES, et al. Hum Reprod. 2013、Moreta L, et al. Fertil Steril. 2018)があり、結論が一致していませんでした。本研究は、NGSを用いて関連しないことを再度支持しています。
今回の結果は、内膜側(レシピエント)の問題以外にも、肥満が卵巣卵胞のプロテオームやメタボロームの変化(Valckx SD, et al. Hum Reprod. 2012、Valckx SD, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2014)を通じて、PGT-Aでは検出できない非染色体的な卵子の質の低下を引き起こす可能性を示唆しています。今後の研究では、エピジェネティクス、プロテオミクス、メタボロミクスなどの分野に焦点を当てていくことが重要かと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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