はじめに
受精胚の着床は妊娠成立に不可欠なプロセスです。着床の早期異常は生化学的妊娠や初期流産の原因となり、後期の異常は流産や妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症と関連しています。反復着床不全(RIF)は複数回の胚移植後も妊娠に至らない臨床状況をさしますが、その定義はなかなか厄介です。
そちらを議論した総説をご紹介いたします。
ポイント
現在のRIF定義は大きく異なっており、将来的には正倍数性の有無などの着床不全リスク因子の存在に基づいて個別化される可能性があります。
引用文献
Garneau AS, et al. Fertil Steril. 2021 Dec;116(6):1432-1435. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.10.023.
論文内容
着床の生理学、着床率、着床不全、RIFの定義についてのレビューです。
着床とは何か:
子宮内膜の受容能は月経周期の数日間に限られ、十分なプロゲステロン曝露と子宮内膜の反応に依存します。臨床的な着床の証拠は母体血中のhCGの存在によって得られます。分割期胚はPOD3でhCG mRNAを発現していますが、hCGが母体循環中に臨床的に検出可能な量で現れるのは、栄養膜細胞の浸潤と増殖が起こるPOD10-11です。排卵後3週間で超音波検査で胎嚢が確認され、その後排卵後4.5週間で心拍動が確実に検出されます。
着床不全の原因は、受精胚因子、母体因子、子宮内膜と受精胚の不調和に大別されます。
受精胚因子:
受精胚の染色体品質は着床成功に影響します。正倍数性受精胚の移植でも着床不全は起こりえます。ある研究では、着床不全の診断定義によって19-33%の着床不全率が認められました。染色体正倍数性以外に、遺伝子変異やメチル化の変化が反復着床不全に与える影響は不明確です。
母体因子:
いくつかの母体因子も受精胚着床に役割を果たす可能性があります。
子宮内膜厚、卵管留水症、慢性子宮内膜炎、粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープなどの子宮内病変などが挙げられ、介入することにより着床率が改善するとされています。
子宮内膜と受精胚の不調和:
子宮内膜と受精胚の発達の不調和も着床不全に関与する可能性があります。子宮内でのプロゲステロン暴露期間は重要ですが、これを評価することは困難です。子宮内膜受容能検査による着床ウィンドウの変位検査が、RIFを経験した患者にとって有益かどうかについては、現在の商用検査だけでは議論の余地があるとされてきています。
着床率の定義:
着床不全を定義するには、まず着床成功と着床率を定義する必要があります。現在、着床率を決定する方法はいくつかあります。明らかなアプローチは、栄養膜浸潤の代用として血清hCGを使用することです。SARTに報告されるデータでは、着床率を胎嚢数/移植受精胚数として測定します。しかし、SART定義では、着床したが超音波検査前に失われた受精胚を説明できません。
反復着床不全とは:
着床の定義が不明確なので反復着床不全の定義も不明確になってしまいます。プラスアルファ反復をどのように定義するかは不明確なままです。現在、RIFを示すとみなされる基準は、多々あります。735人の臨床医を対象とした最近の国際調査では、現在使用されている臨床基準の多様性が強調されています。この調査では、84%の臨床医が移植された受精胚の数に基づいてRIFを定義しており、大多数(45%)が3回の新鮮胚または凍結胚移植の失敗としてRIFを定義していました。
個々の著者は特定の定義を提案しています。Tanらは、3回の完了したIVF周期後に妊娠を達成できなかった場合の定義を提案しました。2つの追加研究では、RIFを、少なくとも2個の高品質受精胚を用いた3回の不成功なIVF周期、または40歳未満の女性における少なくとも3回の新鮮または凍結IVF周期での4個の良質受精胚移植後の臨床妊娠の不全と定義しました。専門学会によってもRIFの定義には違いがあります。欧州生殖医学会(ESHRE)のPGD Consortiumは、RIFを高品質受精胚を用いた3回以上の胚移植の失敗、または複数回の移植での10個以上の受精胚の移植の失敗と定義しています。ASRMは特定の基準を公表していません。
これらの定義の重要な問題は、卵子および子宮年齢、不妊期間、正倍数性(およびこれがどのように決定されたか)、全身疾患、ライフスタイルの問題(肥満や喫煙など)、子宮構造異常、慢性子宮内膜炎、子宮内膜症の存在など、着床成功に影響を与える多くの重要な因子が考慮されていないことです。
私見
RIFの定義は、研究と臨床診療の両方に情報を提供するために必要です。
いつ、国際診断基準がきまるのだろう?とおもい10年以上経過しましたので、もう少し色々な報告をみながら向き合っていきたいと思います。
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文責:川井清考(WFC group CEO)
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