はじめに
ニコチンとその代謝産物(コチニン)は血清、尿、唾液、母乳中に検出されるだけでなく、喫煙者の精漿中にも有意なレベルで検出されることが報告されています。精子運動性、受精能獲得、先体反応は卵子受精を達成するための必須条件です。今回、正常精子を持つ非喫煙者の精液サンプルを用いて、高濃度ニコチンが精子運動性、生存率、先体状態に及ぼす体外影響を評価した研究をご紹介いたします。
ポイント
高濃度ニコチン(5.0mM以上)への2~3時間の曝露により、精子の総運動率、前進運動率、運動速度パラメータ、生存率が有意に低下し、自然先体反応が誘発される可能性があります。
引用文献
Oyeyipo IP, et al. Andrologia. 2014;46(8):887-892. doi: 10.1111/and.12169.
論文内容
正常精子を持つ12名の提供者から得たヒト精子を、異なる濃度のニコチン(0.1、1.0、5.0、10.0mM)で処理し、培養液のみに懸濁した精子(対照群)と比較しました。30、60、120、180分間のインキュベーション後に、コンピュータ支援精子分析(CASA)を用いて精子運動パラメータを評価しました。生存率は色素排除染色法(eosin/nigrosin)により評価し、先体反応を起こした細胞は蛍光顕微鏡下でfluorescein isothiocyanate–Pisum sativum agglutinin(FITC-PSA)をプローブとして同定しました。
結果
ニコチンは5.0mM以上の濃度で2~3時間の曝露後、総運動率、前進運動率、曲線速度(VCL)、頭部側方振幅(ALH)、鞭毛打頻度(BCF)、生存率を有意に低下させ、自然先体反応を誘発しました。0.1mMと1.0mMのニコチン濃度では精子に有意な影響は認めませんでしたが、1.0mMでは2~3時間のインキュベーション後に精子前進運動率が有意に低下し(P<0.05)、3時間のインキュベーション後に生存率も有意に低下しました(P<0.05)。総運動率は5mMおよび10mMの濃度で120分後(49.2±1.04%、47.1±1.47% vs. 68.3±2.42%、P<0.05)および180分後(44.3±2.64%、38.3±1.58% vs. 68.3±2.11%、P<0.05)に有意に低下しました。VCLとALHも同様に影響を受け、1.0mMの濃度でも有意な低下が認められました。1、5、10mMのニコチン濃度は、120分と180分の時点で前進運動率に影響を及ぼしました(120分:29.2±2.03%、23.6±2.28%、20.7±2.43% vs. 47.6±2.87%、P<0.05;180分:25.9±2.83%、18.4±2.56%、17.1±2.12% vs. 33.9±2.75%、P<0.05)。精子生存率は5mMおよび10mMの濃度で120分および180分の曝露後に有意に低下しました(P<0.05)。10mMのニコチンへの30分の曝露後、先体反応を起こした精子が有意に増加しました。60、120、180分の曝露では、5mMおよび10mMの両処理群で先体反応を起こした精子が有意に増加しました。
私見
報告でも触れていますが、カジュアル・スモーカー(1日当たり1-10本のタバコ)やヘビースモーカー(1日当たり>30本のタバコ; Pacificiet al.)の精液中で検出されるニコチン濃度は70lgl1(0.00043 mM) -300lgl1(0.00185 mM)であり、今回の研究に暴露ニコチン濃度よりかなり低濃度です。体内に検出される濃度では精子に悪影響を与えないかもしれませんが、ニコチン事態が精子に影響を与えることは間違いなさそうなので、基本は節煙、禁煙に向かっていただくのが良いのだともいます。
妊娠前男性パートナーの喫煙と流産の関係(F&S Reviews. 2021)
文責:川井清考(WFC group CEO)
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